この反社会性人格障害の患者は、個人的利益や快楽のために違法行為、欺瞞ぎまん行為、搾取的行為や無謀な行為をしても、良心の呵責かしゃくを感じない。そして、自分の行動を正当化ないし合理化し、被害者を責め、その行動が他者に有害な影響を与えたことに関心を示さないといった特徴を持つ。また、衝動的であり、身体的攻撃性を行うが後悔の念がなく、他者に対する共感に欠け、自己評価が高い傾向があり、独断的、自信家、傲慢ごうまん、能弁で、流暢に話すといった傾向も指摘されている。

相談者と行為者の関係は、交際相手(元を含む)が595件(49.3パーセント)で最も多い。出典=警視庁「ストーカー事案の概況」2023年3月3日

恋愛についてオープンに話せる親子関係でないと対応が遅れる

それでは、娘の交際相手が凶悪化したとき、親はどうやって子を守ればいいのか。

そもそも、子どもとのコミュニケーションを円滑に行っている親でも、性的な要素も含む恋愛関係に関して、普段からオープンに話せる関係は少ないであろう。娘と母との会話の中には有っても、娘と父との間では、ほぼ皆無ではないだろうか。

それ故、娘がストーカー被害に遭った際、すぐさまストーカーの心理と行動を直感的に推測できる人が不在となって、対応が一歩遅れることになる。

娘は彼氏が暴力を振るった後の優しさを本来の姿だと思う

横浜のケースのように、男性から女性へのDVが継続的に行われて、両者の関係がなかなか解消されない、といった問題がある。

その理由として、レノア・E・ウォーカー(Walker 1970)は、暴力のサイクルモデルを提案し、その説明を試みている。「緊張形成期」「爆発期」「ハネムーン期」の負のサイクルである。

まず、相手との関係に緊張、緊迫感が持たれ始める「緊張形成期」である。加害者が、ちょっとしたことでイラつき、小さいながら体への暴力や言葉の暴力が現れる時期である。被害者は、刺激しないよう相手に合わせ、暴力を受けても「これぐらいなら我慢できる」といった気持になっている。次に、加害者の度を過ぎた抑制の利かない暴力が、1週間以上も続く「爆発期」である。この時は、被害者が抵抗しても収まらない。

その後に続くのが「ハネムーン期」となる。加害者は、「もう二度と暴力をふるわない、自分が悪かった、ごめんなさい」と謝り、また、被害者がいないと生きていけない、といった関係修復の態度を示す。被害者は、それを信じ関係を継続してしまうことになる。しかしながら、しばらくすると再び「緊張形成期」が訪れ、DVのサイクルが始まることとなる。

被害者がこのループから逃げられない理由として、被害女性は「ハネムーン期」の加害者が本来の姿だと信じていること、別れた時の報復などが怖いこと、などがあると考えられている。

もし、自分の子どもが暴力を振るう交際相手と別れられないといった状態にあるときは、DVにはこのサイクルがあるということを理解させることが一助になるだろう。