肉体関係を求められたら「今さら困っちゃう」

「ほんと夫婦ってカンジがしないんですよね」

と言いながらも、梓さんは、

「私は今のままが一番」

と、繰り返し言ってニッコリと微笑む。その生活を壊すのは、夫が「そろそろしようか」と肉体関係を求めて来た時ではないだろうか。ところが、

「それはないですね」

梓さんは、迷うことなく言い切った。

「そう言われても困っちゃいます。私ができないから、今さら困っちゃうんです」

「今さら」――それは、セックスレス夫婦の取材をした時、多くの取材対象者から聞いた言葉だった。私がそれを言うと、梓さんは、

「やっぱりそうなんですかねぇ……」

最初からずっとセックスレスだっただけ

軽やかに笑った。その笑顔に、私はなぜか大人の色香を感じた。なのに、梓さんは男性未経験で、体が欲することもない。大人のつややかさは、男性経験や女性経験から生まれるわけではないのだと、私は梓さんを見ていて知った。

「長く一緒にいると同志とか家族とかになって、今さら男と女じゃなくて……ってカンジになると、セックスレスの夫婦はよく言いますよね。私たちも、そんなカンジに近いのかもしれません」

家田荘子『大人処女  彼女たちの選択には理由がある』(祥伝社新書)

結婚後、セックスレスになっていく夫婦も多いが、

「私たちは最初からずっとそうだっただけですよね」

梓さんの言葉に、思わず私はうなずいていた。

結婚前からセックスレスということは、結婚後の従来のセックスレスと違って、将来セックスレスでなくなる可能性も秘めている。ならば、梓さんのほうから「しよう」とアプローチする日は来るのだろうか? 聞いた途端に、梓さんはクスリと息を吐いて笑った。

「言わない。私から言いたくはない。私からは言えない。私は、やっぱりこのままがいいんです」

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