『インターネット革命』の内容がほぼ現実に

国境なき世界では、従来の3Cに加え、新しい2C「国家(Country)」と「通貨(Currency)」が加わった5Cが企業戦略を大きく揺さぶることになった。

世界の最適地でモノをつくり、最も高く買ってくれる最適な顧客、マーケットに売る――。グローバルベースで戦略の最適化を図らなければ生き残れないことを、身をもって経験したのが80年代以降の日本だ。ましてや通貨という変動要因によって、一生懸命にモノをつくっても、利益が吹っ飛んでしまう円高の悲哀も味わってきた。

グローバル化の視点については『ボーダレス・ワールド』以前から触れていて、『トライアド・パワー』(講談社刊・85年)では、日米欧の3極に志向性が似通った約7億人の顧客がおり、この7億人を日米欧から時間的にも距離的にも等距離に見ることができる企業でなければ成功しない、と説いたのだ。

この『トライアド・パワー』と『ボーダレス・ワールド』は日本ではさほど売れなかったが、海外では高く評価され、啓発を受けた経営者は少なくなかった。当時、スミスクライン会長のヘンリー・ウエント氏は、これがキッカケでイギリスのグラクソと合併した。また、世界的なメディア王、ルパート・マードック氏から「友人に本を50冊配った。彼らを呼ぶので講釈してくれないか」とビバリーヒルズの自宅に呼ばれたこともある。

また95年に出版した『インターネット革命』(プレジデント社刊)は、ネット時代の企業戦略はどうあるべきかを初めて示したという意味で、戦略論の系譜に数えてもいいだろう。この本を読んだ経営者から「(書かれていることは)私たちが生きている間には起きませんよね」と不安交じりによく言われたものだが、5年後の2000年には本書の内容のほとんどが現実のものになっていた。

『ボーダレス・ワールド』に次いで重要な問題提起を行ったのが2001年に出版した“The Invisible Continent(見えない大陸)(ハーパー刊)”、邦題『新・資本論』(東洋経済新報社刊)である。

なぜ重要かといえば、近年になって世の中が気付いて騒ぎ出したことが、ほとんどすべてこの10年前の本に書かれているからだ。例えば、本書には「富はプラットフォームから生まれる」のチャプターがある。アメリカの学者がプラットフォーム研究を始めたのが05年ぐらいからで、国内では2010年になって『プラットフォーム戦略』という本が出た。これらを鑑みれば、かなり先駆者的な内容を提示していたといえよう。

※すべて雑誌掲載当時

(小川 剛=構成 的野弘路=撮影)