寝たきりや認知症はそんなに悪いことなのか
さらにいえば、PPKを「理想的な逝き方」であるとの思考のなかに、ややもすると「要介護状態」や「認知症」で生きていくことを否定的にとらえる思考が含まれているとするならば、それには高齢者医療・在宅医療にかかわる医師として、非常に残念な気持ちを持たざるを得ないことを、多くの人に理解していただきたいのです。
昨今の少子高齢化、高齢者にかかる社会保障費の増大を懸念する声の高まりとともに、「高齢者は集団自決するのが唯一の解決策」と述べた経済学者の暴論も飛び出しました。これらの「要介護状態」や「認知症」で生きていかざるを得ない人が、あたかも若者の足を引っ張る存在であるかのような言説がこの国の空気を支配していくことになれば、個々人で多様かつ自由であるべき「理想的な逝き方」さえもその空気に支配されてしまいかねません。
重要なのは「寝たきりにならないために」「認知症にならないために」ばかりに集中して対策することではなく、「寝たきりになっても」「認知症になっても」不安なく穏やかに最期を迎えたいとの希望を持つ人が安心して過ごせる社会を、いかに作っていくかということです。そしてそのように高齢者が真に安心して生活できる社会であれば、「PPKは理想的な逝き方」などと、それほど言われることもないでしょう。