「パンドラの箱」は火を使った人間への罰だった

火を盗んで人間にあたえたことで、やたらと人間をひいきしてくれる神様・プロメテウスは、ゼウスからバツをあたえられてしまった。

しかし、ゼウスの怒りはそれでも、おさまらない! プロメテウスだけではなく、火を使った人間に対しても、バツが必要だと考えたのだ。

そこでゼウスは「パンドラ」という女の人を、工芸とかじの神・ヘパイストスに作らせた。これが、「人類最初の人間の女」。それまで地上には、男しかいなかったのだ。

ゼウスはパンドラとともに、ツボを人間界に送りこんだ。そして、パンドラにはこう伝えた。

「ツボをけっして開けてはならないよ」

地上に送られたパンドラは、プロメテウスの弟・エピメテウスと暮らし始める。だが、しばらくすると、パンドラはツボのことが気になって仕方がなくなってしまう。

「何が入っているのかしら。ちょっとくらいなら、開けてみてもバレないわよね……」

うーん、すごくイヤな予感がするけど……。

「開けるな」と言えば必ず開けると見越していた

「開けるな」と言われると、開けたくなるもの。ゼウスはそこまで考えて、パンドラにあえて「開けるな」と言ったのだ。

こざきゆう、真山知幸(著)、庄子大亮(監修)『ぶっ飛びまくるゼウスたち』(実業之日本社)

ゼウスは一体、ツボに何を入れたのか。それは、病気や不幸など、あらゆる災いだ。トンデモないものを、ぶちこんだものだ。

そうとも知らずに、パンドラがツボを開けた瞬間、中に入れられていた病苦などが飛び出して、世界に広まってしまった! 人間が病気になったりして死ぬのは、そのせいなのだ。

つまり、パンドラがツボを開けるまでは、人間には病気も不幸もなかったということになる。あぁ、開けないでおけば……。ゼウスのたくらみによって、人間は色々な不幸に苦しめられながら、生きることとなった。

これが「パンドラのツボ」の話だが、今は「パンドラの箱」という表現で広まっている。「開けてはいけないもの、知ってはいけないこと」のたとえだ。

さて、いきなりツボからあらゆる不幸が飛び出て、あせったのはパンドラである。あわてて、ツボの口をふさいだ。すると、「希望」だけは中に残り、人間の手元に残ることになった。

ゼウスのやさしさ? と思うかもしれないが、いやいや! よく考えてみてほしい。私たちは「こんな風に、なりますように」とたくさん希望を持つけど、叶うことは本当に少ない。だから、そのたびにガッカリしてしまう。希望が見えるから、災いがより強調される、ということだ。

さすが、何でもできるゼウス……! イヤがらせの仕方もぶっ飛んでいる。私たちができることは、何度ガッカリしても希望を持ち続けること。そしたら、ゼウスを「希望を残すんじゃなかった……」と後悔させることができる、きっと。

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