「えさやりさん」の心の中

戦中戦後を生きぬいてきた高齢者は野良猫を見ると、かわいそうとご飯をあげたくなり、えさやりさんになってしまうのではないかと、長谷川さんは推察しています。えさやりさんは、自分がえさをあげていた野良猫が子猫を産むとどうしようとなやみ始めます。

そんな時に長谷川さんのような人が手術の必要性や、自治体などの助成金を使えばほぼ無料で手術ができることを説明すると、納得してくれるのです。高齢者でもちゃんとつかまえて、ほかく器に入れて猫を連れてきてくれます。自分が年だし、猫より先に死んだら世話ができないから、これ以上猫が増えないように、という思いでやっているようです。不妊去勢手術をすればえさをあげても、もう繁殖しませんからね。

女性が乗る車の後部座席からは、ミャーミャーの大合唱。「ちょっと待ってねー」と、女性は猫に話しかけながらケージをせいとんしています。全部で20ケージはありそうです。まだ入りきらないケージがあるので今度は助手席にも積んでいきます。

女性が運転席に座るとバックが見えないのではないかと思うほど、車の中は猫が入っているケージでぱんぱんになりました。

「それじゃ、安全運転で帰りますね」

女性は言って、去っていきます。

ほんとうの理想はTNRのいらない世界

TNRはよい方法のように感じますね。でも青山先生は「いずれはリターンをなくしたい」と打ち明けます。

「殺処分はもちろん、TNRがない世界になるといいな。すべての猫が人に譲渡できたらいいよね。それが難しければ、せめて安くないと医療が受けられない野良猫でなく、みんなから見守られる地域猫でいてほしいなあ」

その根底には「野良猫も飼い猫も同じ命」という思いがあるのです。

「私は野良猫だけじゃなくて、普通の飼い猫のオペもするし、高度医療も行う。動物が好きだから、どの子(猫)も大切。野良猫にも、みんなで平等にお金をかけて助けようよ、って思うんです。だって私たちがその子たちを路頭に迷わせたのですから」