「これが当たり前」という空気がブラック職場を作る
私が最も懸念しているのは「固定残業代を払ってるんだから、その分の残業をするのは当たり前」といった空気感が職場に蔓延することだ。法的にもモラルにも正当な業務方針に抗うことは難しい。
だが、この空気感の厄介なところは、「ウチの会社はこうだから」「業界の常識だから」「固定残業代を払ってるんだから残業代は出ない」といった偏った価値観や歪んだ同調圧力に豹変しやすいことだ。
ずっと押し付けられれば、諦めて会社の色に染まったほうが楽に感じる人も出てくるだろう。こうして長時間労働と違法労働は常態化。筋金入りの社畜精神を持つ人材で溢れるブラック企業が完成する。
とはいえ、固定残業代を採用しているからといって「定額働かせ放題」が実現できるわけではない。この点は労使共に勘違いしている傾向が強いように感じるので注意が必要だ。
あくまで固定残業代は、一定時間までの残業代の月額固定払い。設定された残業時間分を超過した場合は別途、残業代を支払わなければならない。ところがどっこい。働く人と働かせる人の知識不足や言葉のイメージ、職場の空気感などの要因で、固定残業代は搾取の常套手段として使用されているのが実情ではないか。このような背景があるため、固定残業代を導入している企業へは基本的に入社しないのが賢明だろう。
「月5000円の手当」で違法労働がバレた
実際、私が訴えた2つの会社は営業手当や諸手当を固定残業代として悪用していた。
もう少し詳しく説明すると、2社目は勤務時間内(会社内のオフィスで働いている時間)の残業代は1分単位で発生していた。しかし、勤務時間外(タイムカードの退勤を打刻した後、あるいは出勤を打刻する前)に突発的に起こるトラブル対応は、手当等のないサービス残業が基本だった。
私は、この休日を含む勤務時間外に無給でトラブル対応することに納得がいかず、仕事のオンとオフを切り分けたいと長らく上司に訴え続けてきた。すると、解雇2カ月前から「業務量の増加に伴う手当」として月5000円の手当が支給されるようになる。
今思えば、万が一の時のためにリスクヘッジをしたかったのだろう。解雇通知書を渡すタイミングで「休日対応手当(固定残業代のつもり)を支払っているのに対応していませんね? よって勤務態度不良で解雇します」と言ってきたからだ。
裁判では、この謎の手当5000円が一つの争点になった。会社側は「この手当は固定残業代であり、時給1100円を基に計算した」と主張したが、私が働いていた県は最低時給が900円以上あり、これに割増賃金の計算方法である1.25倍を掛けると時給1100円では足りない計算になる。
つまり、手当の性質はどうあれ、会社は違法労働を強いていた事実を裁判で堂々と認めてしまった。私の場合は会社側に労務の知識が乏しかったこともあり、これといった大きな問題は起きなかったが、あの手この手で正確な残業代を出し渋る企業には注意したい。