彼らは、所要時間は短かければ短いほど良いサービスになることを知っている。実際、乗客にとって乗り換えは1回だけでも非常に面倒なものだ。

空港での待ち時間も半日ほど要する場合もあるため、目的地に着くまでにどっと疲れてしまう。エアラインによっては、この時間でハブ空港から無料の観光ツアーを手配するところもある。しかし、こうしたサービスに喜ぶのは時間に余裕のある学生などであって、ビジネスマンが好む時間の使い方ではない。

20時間ノンストップの「世界最長路線」はこうした旅行者の不便さを解消するとともに、競合路線におけるカンタス航空の優位性を一気に高める決定打になる――。これが「夢の直行便」にこだわる理由であり、直行便実現の原動力になった。

筆者撮影
カンタス航空のA330型機。

かつては経由地7つ、片道4日の長旅だった

オーストラリアとロンドン間の最初のフライトは1919年。当時は28日かかっていた。翌年に設立されたカンタス航空は、35年に国際線事業に乗り出し、所要時間をどんどん短縮させていった。

カンタス航空の資料「カンガルールートの今と昔」「カンガルールートの歴史」などによると、カンガルールートが誕生した1947年、使用機はロッキードL-749コンステレーションだった。アメリカの航空機メーカー・ロッキード社が開発製造した4発プロペラ旅客機で乗客数29人。7つの空港を経由しながら、シドニー・ロンドン間を58時間かけて飛んだ。片道4日の長旅だった。

その後、機材はスーパーコンステレーションを導入。1959年には両国間を結ぶ初の民間ジェット機・ボーイング707が就航、1971年にはボーイング747ジャンボジェットが導入され、所要時間を25時間ほどに圧縮させた。さらに同ダッシュ400へと変わり、現在のエアバスA380に至っている。

機体性能、とりわけエンジン性能の向上とともに経由地を減らし、フライト時間を短縮させてきた経緯がある。そしてようやく「夢の直行便」が実現することになった。

ぴょんぴょん跳ねるカンガルーがいなくなる寂しさ

航空機が飛びはじめて120年、プロペラ機がジェット機になって50年。この短い期間で、大きく性能は向上した。利用者は世界中のどこへでもノンストップで出掛けることのできる利便性を手に入れた。あとは、搭乗する人間の身体がそのフライト時間についていけるかどうかが焦点となる。

経由地が多いことからまるで跳ねては止まるを繰り返すカンガルーに見立て、「カンガルールート」と呼ばれて親しまれた路線であるが、これからは跳ばないカンガルーとなる。寂しさと引き換えではあるが、利便性を手に入れたことは人々にとって進歩であると思う。

筆者撮影
カンタス航空のボーイング747⁻400型機。
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