トレーニングに複雑なマシンが加わることの危険性
安全性は、健康産業における主要な関心事だ。皮肉なことに、寿命を延ばし、健康を改善するための習慣が、けがにつながるケースが非常に多い。朝のランニングで足にまめができたり、心臓麻痺を起こしたりすることもある。
ウェイトトレーニングに複雑なマシンが加わると、その危険性は増大する。2021年には、当時破竹の勢いだったペロトンが、新しいトレッドミル(ランニングマシン)のリコールを余儀なくされた。その独特なデザインが、1人の子どもの死と多くの負傷事例を引き起こしたと考えられたためだ。
フィットネス装置は、新しいアイデアを安全に開発するために、より頻繁に実験を繰り返すことが非常に重要な分野の1つだ。慣れないマシンに乗った人が何をするかは予測がつかないし、毎回マニュアルを読むとも思えない。
トレッドミルのデザインをどう変更すべきか
ビル・パチェコは、サイベックスでプロダクトデザインのシニアディレクターに任命されたばかりのときに新しい任務を与えられた。年末までにトレッドミル部門で現在の6位から1位になることをCEOが望んだのだ。
トレッドミルは最も普及しているフィットネス装置なので、順位を3つ上げるだけでも、サイベックスの損益に劇的な効果をもたらすはずだ。パチェコは、デザインをどう変更すれば需要にそれほど大きな影響を与えられるのかを考えた。dスクール(編集注:著者らが講座をもつスタンフォードのデザイン思考研究所)で学んだことを活かす、またとない機会だった。