百貨店には家族連れを取り込める施設がない
そういう消費者ニーズと、90年代以降、ファッション衣料品に特化した百貨店の品ぞろえが全くマッチしなくなっていることにも考慮が必要でしょう。高度経済成長期に百貨店が家族連れ客を広く取り込めた理由は、
1、屋上遊園地などのアミューズメント施設があった
2、ファミリー向けの大食堂があった
3、玩具売り場や本屋などがあった
などが挙げられます。もちろん高度経済成長期の旺盛な消費意欲はあったでしょうが、現在のようにファッション衣料品に特化した品ぞろえでは、確実に子供連れ客は逃げてしまいます。両親はファッション衣料を楽しむかもしれませんが、子供からすると洋服の買い物ほど退屈なものはありません。しかし、屋上遊園地や大食堂、玩具売り場などがあったので子供も当時の百貨店ではそれなりに楽しむことができました。
現在、これらの施設がそろっているのは百貨店ではなく郊外型の大型ショッピングセンターです。ですから駐車場が広いという理由だけでなく、家族連れ客を取り込むことができているのでしょう。
90年代以降、百貨店は効率よく稼ぐために化粧品とデパ地下の食品を除いてはファッション衣料品に特化しました。あとは貴金属・宝飾くらいでしょうか。たしかに2000年ごろまではこの特化が最適でした。
しかし、百貨店顧客層までが衣料品よりも食料品を買うほどにファッション衣料品への興味を低下させている状況においては、決して消費者ニーズに則した品ぞろえとは言えませんし、こんな品ぞろえでは子供が退屈するので家族連れ客は寄り付きません。百貨店は子供を連れて行くことができない高額ファッション衣料の集積地になったと言えます。
ショボい地方の百貨店は消滅する
話を冒頭に戻すと、新宿伊勢丹の絶好調ぶりや阪急うめだ本店やJR名古屋高島屋の強さはたしかに百貨店としては明るい兆しですが、それはそれぞれの地域の高級ファッション衣料品好きな消費者を一手に取り込んだからだと言えます。
逆に言うと、新宿伊勢丹のような売り場は東京には1つあれば十分で、2つは共存できません。これは阪急うめだ本店、JR名古屋高島屋にも共通して言えることです。結局、伊勢丹にしろ、阪急にしろ、本店以外の郊外店の売上高はさほどたいしたことがなく、伸び悩んでいます。
今更、資金繰りの苦しい百貨店が路線変更をして大食堂や屋上遊園地を再現するような投資ができるわけもありませんから、大都市大型旗艦店だけが各地域の「ファッションの殿堂」として残り、ショボい地方・郊外店は消滅するというのが百貨店の未来だと筆者はみています。