中国側は武漢研究所のデータの提供を拒み続けているほか、世界保健機関(WHO)が検査チームを派遣した際にも、非協力的な姿勢を貫いた。「チームを追い返したようなものだった」とゴードン氏は述べている。ウイルスが発生した当事者国の協力なしに調査を強いられているため、アメリカの情報機関の分析は非常に困難になっていると氏は歯がゆさをにじませる。
米CBSニュースも3月、将来のパンデミック防止のためにも起源の解明は急務であると指摘した。だが、中国が長期にわたり必要な情報の提供を拒み続けており、一部の重要書類はすでに破棄されているなど、課題は多いとの指摘だ。
感染症から人々を守る研究施設が、世界中を苦しめている
新型コロナウイルスの起源を追求する動きついては、科学的に重要な行為である一方、アジア人への人種差別を助長する恐れもあるとして慎重論もアメリカで出ている。
しかし、米大手紙であるワシントン・ポスト紙が、あえてこの時期に研究所起源説に触れる記事を公開しなければならなかった背景には、このままでは新たなパンデミックが起きかねないとの危機感があったからに他ならない。
仮に武漢の研究所がウイルスの起源であったとしても、すでに起きてしまったパンデミックを巻き戻すことはできない。過去は過去として失敗に学び、今後のパンデミックを世界全体でどう防いでいくかの知見を高めればよい。
しかし、このような建設的な議論への転換を妨げているのが、ほかならぬ中国政府だ。パンデミック発生直後の貴重なデータを隠蔽・破棄し、さらに現地のウイルス研究所は、ずさんな管理体制で運営を続けている。
また、中国では2000年代のSARSの流行後、同じ事態を繰り返さぬようにと、多くの研究施設が建設された。ところが、これらの拠点における安全管理がおろそかになり、むしろ新たなパンデミックの原因になり得ると指摘されているのは、極めて皮肉な事態だ。
中国は、起源解明の妨害と研究所の安全性確保を怠るという二重の意味で、新たなパンデミックの危険性を高めているといえよう。惨事を繰り返すことのないよう、体制の早急な改善が求められる。