なぜ日本企業はDXの波に乗り遅れたのか
世界がデジタルによる変革(=DX)に向けて突き進む中、日本は出遅れた。変革(=X)そのものへの懐疑的な意見や反発が根強く、「今、ウチの会社にこのような変革が本当に必要なのか?」という意見が数多く発せられるというのが、2010年代の日本のビジネスの現場のリアリティだったといえよう。裏を返せば、(根拠のない)危機感の欠如がそこにあったともいえる。
そんな状況を一変させたのが、20年から始まった新型コロナウイルス感染症によるパンデミックだ。ライフスタイルやビジネス環境、人々の価値観そのものの前提が崩れ去る中、企業はまず「危機への対応」という形での変革を迫られた。また、その対応については、国家間での変革スピードの差を目の当たりにすることになった。
米国と日本を比較してみよう。20年春に新型コロナウイルス感染症の流行が爆発的なものとなった両国の対応は、一方はロックダウン、一方は緊急事態宣言という名のもと、特に対面商売を基本とする外食・小売・旅行などエンターテインメント産業の収益に打撃を与えたが、スピード感とダイナミズムという意味で対照的だった。
米ディズニーが従業員2万8000人を解雇、日本は…
例えば米国では、ウォルト・ディズニー・カンパニーが従業員2万8000人の解雇を発表したのは同年9月。背景にはオンデマンド事業ディズニープラスへのシフトを加速させるという意思決定があった。また、小売大手のウォルマートも、わずか半年弱の準備期間で有料会員向けの当日配送サービスを開始している。世界屈指の大企業が、従来の軸であった事業そのもののシフトを、非常に短期間で決断し、実現したのだ。
日本はどうだっただろうか。百貨店業界を例に挙げてみると、20年2月に政府が百貨店に対して感染拡大防止策を要請、各百貨店が臨時休業を相次いで発表し、その後5月末まで休業は継続することとなった。各百貨店とも大幅な営業減収となり、第2波、第3波が押し寄せる中で消費者の巣ごもり需要が増加する一方でも、各百貨店はオンラインサービスの対応に後れをとった。遊園地・テーマパークでも、海外と比較して客先を復調するのに多くの時間を要した。さらには雇用調整も日本の労働契約上の制約から遅々として進まず、航空会社などを中心に打撃を受けた業界は、その他の業界の企業への出向などで対応した。
これらは一部の例に過ぎないが、総じて日本企業の変化への対応の遅さが際立っており、事業そのものの根幹に関わるような大胆な変革、例えば顧客との関係性や従業員との関係性がこれまでとは一変するような取り組みとなるとその傾向は更に強まっていく。