官僚にとっては「願ったり叶ったり」の新しい役所

このところ、首相に就任すると新しい組織の設置をぶち上げる傾向が続いている。菅義偉首相は2020年9月に総裁選で「デジタル庁」の新設を掲げ、わずか1年後の2021年9月に発足させた。デジタル化によって業務を一元化することで、「行政の縦割りを打破」することが菅氏の狙いだったが、首相を退いた結果、縦割り打破には程遠く、デジタル庁もあまり話題にのぼらなくなった。

代わって登場した岸田首相は、新型コロナの蔓延期だったこともあり、感染症対応の司令塔を作ると表明。今年4月には法が成立し、内閣官房に「内閣感染症危機管理統括庁」を新設することが決まった。今秋にも設置される。こども家庭庁と並んで2つの組織を設置する「実績」を残したことになる。

新しい役所の設置は、霞が関の官僚にとっては願ったり叶ったりだ。2001年に1府22省庁から1府12省庁に再編された際、省庁は統合されただけで権限は変わらず温存されたと言われる。一方で、官僚の最終目標である「事務次官」のポストは大幅に減っていた。新しい役所組織ができれば、事務次官や事務次官級の長官ポストなどが置かれる。小泉純一郎内閣や第1次安倍晋三内閣では、長官ポストなどを民間から公募するよう圧力がかかったが、官僚機構に融和的な岸田内閣は、官僚のポスト就任に抵抗しない。

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復興庁の設置期限は10年延長された

霞が関はいったん得た権利はなかなか手放さない。その典型が復興庁だ。東日本大震災からの復興を一元的に行う役所として2012年2月に設置された。当初は2021年3月31日までの時限組織だったが、2020年に法改正して設置期限を10年間延長した。復興庁には大臣、副大臣、政務官らの政治家ポストが置かれ、歴代事務次官ポストは旧建設省出身者と旧自治省出身者が分け合っている。役所の増加は官僚だけでなく、政治家のポスト増にもつながるため、永田町と霞が関にとってはウィンウィンなのだ。

もちろん、ポストが増えれば予算も増える。こども家庭庁にも「こども予算倍増」を旗印に独自財源が割り当てられることになるのだろう。「こどもがまんなかの社会を実現する」と言われれば、ほとんどの国民は反対できない。だが、放っておけば、行政の肥大化は止まらない。ポストを減らし、予算を減らすインセンティブが官僚にも政治家にも働かないからだ。そしてそのツケはいずれ国民に回ってくることになる。

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