徹夜でも何事もなかったかのように振る舞える「タフ」さ

二つ目の「危急存亡の時に舵取りを任せられる」安定感は、どんな組織にあっても必要不可欠な要素に違いない。「安定感」あるいは「懐の深さ」の背後には、「忍耐力」というもう一つの要素が伴わなければならず、いざという時にはテコでも動かない強い意志が必要になる。

ちょっと脇道にそれた見方のように映るかもしれないが、「疲れを見せない」タイプの人間がいる。霞が関の中では特に大蔵官僚に多く見られたが、要は、徹夜などどんな状況に追い込まれても何事もなかったように振る舞える人たちのことだ。別の言葉で表現すれば、「タフ」あるいは「メンタルストレスに強い人」というタイプで、これも安定感を支える重要な要因のように思われた。

次官レースの勝敗を分けた「遊び」

そして三つ目の、相手をギリギリまで追い込まない「ハンドルの遊び」。筆者がのちに二度目の財研を担当していた頃、この要素が次官レースの勝敗を分けたと言われた事例があった。いずれも59年入省組の斎藤次郎と土田正顕まさあきの甲乙つけ難いライバル二人で、どちらが次官になってもおかしくないと噂される時期が長く続いた。

岸宣仁『事務次官という謎 霞が関の出世と人事』(中公新書ラクレ)

2人の性格を多少デフォルメして語ると、斎藤は細かいことにこだわらない省エネ投法であり、部下に対しても無駄と思える作業を押しつけることはほとんどない。それに対し、仕事の鬼であった土田はカラオケの店に行っても天下国家を論じ、当面の課題をいかに解決すべきか、部下に議論を吹っかけるのが常であった。

そんな2人の次官レースは、最終的に斎藤に軍配が上がり、土田は銀行局長から国税庁長官への道を余儀なくされた。この結末を見て、当時の省内スズメのささやきは、「やはり優秀な2人の最後を分けたものは、ハンドルの遊びかな」という見方で一致した。

ここまでが、財研担当を通して得た“教訓”であり、その後の長い大蔵(財務)省ウォッチで確信へと変わった人物観察の要諦である。それらがしばしば出世パターンの雛型として脳裏に浮かび、次官レースに残るであろう人物を品定めする材料にしたものだ。

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