目撃証言は正しいとは限らない
ある出来事を実際に目撃したとしても、あとからその出来事に関連したほかの情報に接すると、その情報に影響されてオリジナルの記憶が変わってしまうことがあります。
上記の実験のように、「激突した」という言葉で尋ねられたことで、「きっとフロントガラスも割れていたに違いない」と思ってしまうような現象を「事後情報効果」と言います。
無実の罪で収監されることになった原因の中でも多いのが「誤った目撃証言」だとされています。その中には事件とは関係ないところで見た顔を、確かに事件現場で見たように思い込んでいたケースがあり、これは「ソース・モニタリング・エラー」が関係しています。
ソース・モニタリング・エラーというのは、その記憶がいつどこでどのように得られたかという情報源(ニュースソース)を特定できなかったり、誤って特定したりすることを言います。
たとえば、「どこかで会ったことがある人だ」と思って挨拶したけれど、「どこで会ったかは、すぐには思い出せなかった」という経験は誰にでもあるでしょう。裁判の証拠となる目撃証言には、「どこでそれを見たのか」という情報源に関するエラーが少なからずあることがわかっています。
経験した気がするニセの記憶
3つめは、記憶の真偽に関する問題です。
以下の単語を10秒以内で覚えてください。
さて、上の単語の中に「礼儀」という言葉はあったでしょうか?
実は「礼儀」という単語は上にはないのですが、「あった気がする」と思った人もいるのではないでしょうか。
じつは、上に提示された単語はどれも「礼儀」に関連するものです。そのため、自分では気づかないうちにすでに持っている知識と結びついて、「礼儀」という単語があったように感じてしまうことがあります。
私たちは「見たこと」「聞いたこと」をそのまま記憶しているわけではなく、実際には経験していない出来事を、あたかも経験したかのように思い込んでいることがあります。
これを「虚記憶(フォールスメモリ)」と言います。
記憶は書き換えられる
心理学者エリザベス・ロフタスの実験では、まず参加者の家族から、参加者が子どもの頃に体験したエピソードを聞き取りました。のちに、それらのエピソードの中に「ショッピングモールで迷子になったことがある」という、実際にはなかったウソ(架空)のエピソードも混ぜて参加者に提示しました。
その後、参加者に子どもの頃の体験を思い出してもらったところ、何人かはあたかも実際に体験したことのように、そのウソのエピソードについても語り出したのです。
人は誘導されることによって、実際に起きていないことを、まるで体験したことのように思い出すことがあります。
誘導されるだけではなく、ある出来事をくり返しイメージしているうちに、その出来事と実体験を区別できなくなってしまうこともあります。この現象は「イマジネーション膨張」と呼ばれます。