「ASDの夫」の当事者会で見えたもの

――ほかにはどのようなピアサポートを行っていますか。

【加藤】ASDの夫に悩まされている状態を俗称で「カサンドラ症候群」と呼びますが、私たちは「カサンドラ症候群の夫」すなわちASD当事者男性の会を2022年から始めています。

――「カサンドラ症候群の妻」ではなく、ASDの当事者である夫の会ということでしょうか。

【加藤】そうです。私たちも最初は、夫とうまくいかない女性を集めた「カサンドラ症候群の妻の会」を運営していました。そのなかで、妻の会に悩みの種である夫を連れてくる女性が何人かいたんですね。

 
東京大学名誉教授の加藤進昌さん

その夫たちも、妻の気持ちを汲めずに見当違いの言動や行動をしてしまってはいるものの、妻のために現状を変えたいとは思っているようでした。そこで、そうした夫たちが集まってできたのが「カサンドラ症候群の妻を持つ“夫“の会」でした。

ある参加者が「専門的なことを一方的に話し続けてしまう」「口頭で頼まれたことをすぐに忘れてしまう」といった失敗談を話すと、ほかの参加者も「俺もそういうことがあるなぁ」と共感しています。そうして当事者が癒されながら、改善点を見出していく。そうした作用が、ピアサポートにはあると思います。

「治す医療から、治し支える医療」を目指す

加藤進昌『ここは、日本でいちばん患者が訪れる 大人の発達障害診療科』(プレジデント社)

――今後の取り組みについて教えてください。

【加藤】引き続きピアサポートを拡大していきたいです。最近では、発達障害当事者の家族がお互いを支え合うピアサポートも始めています。

発達障害の診療を専門的に行う新しい病院の建設も進めています。この病院では、いままで行ってきたデイケア・ショートケアに加え、宿泊型自立訓練・生活訓練を行える施設を設置し、「治す医療から、治し支える医療」を目指して、生活・就労支援につなげていきたいと考えています。そうした施設を利用して、さまざまな特性を持っている人たちのピアサポートを運営していきたいと考えています。

(構成=佐々木ののか)
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