記事は、士気の低下や連携不足などロシア軍が多くの問題を抱えていると指摘しながらも、「しかしながら、それにも増してすべてを悪化へ導いたのは、開戦初期に致命的な大失策があったためだと西側当局者たちは語る。すなわち、ウクライナの制空権を獲得することに失敗したのだ」と論じる。

ロシアはミサイルやドローンを投入した戦術で一定の成果を上げているが、欧米の軍事アナリストたちは、こうした兵器に頼ること自体が失策の表れであると指摘しているという。制空権を掌握できず、戦闘機が撃墜されるリスクが大きいからこそ、遠隔地からの攻撃に頼らざるを得なくなっていた。

ウクライナ国立戦略研究所のミコラ・ビエリスコフ氏は、同紙に対し、ロシア空軍が防空網を制圧する訓練を積んでいなかったこともウクライナに幸いしたと振り返る。防空網の制圧には通常、電子戦と物理攻撃機、そしてミサイル攻撃を用いた複合的かつ慎重な連携が求められると氏は指摘する。

防空システムの89%がソ連製

だが、状況は今後数週間のうちに大きく転換するおそれがある。ペンタゴンの流出文書は、ウクライナが防空能力をそう長く維持できないとの見通しを物語る。

ニューヨーク・タイムズ紙は、「ウクライナの防空は増援なしには危機的状況にあると流出文書が示唆した」と報じている。記事によるとペンタゴンは現在、ロシアが激しい遠距離攻撃を重ねたことで、ウクライナ側で防空に必要なミサイルの備蓄が枯渇する事態を懸念しているという。

ウクライナは戦闘機と対爆撃を迎撃する防空システムとして、ソ連時代のS-300長距離地対空ミサイルシステムおよび9K37「ブーク」中・低高度防空ミサイルシステムを多く配備している。流出文書によるとこれらは、ウクライナ防空システムの89%を占める。

ウクライナ軍の地対空ミサイルシステム「S-300」(写真=General Staff of the Armed Forces of Ukraine/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons
2008年、ウクライナのキエフで行われた独立記念日のパレードに参加した9K37「ブーク」中・低高度防空ミサイルシステム(写真=Віталій/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

これら2種のシステムに用いられるミサイルの備蓄が、文書によればそれぞれ5月3日および4月中旬までに「完全に枯渇」するおそれがあるという。文書は2月28日に発行されたものだ。その後の節減などにより、払底までの時間が多少延びている可能性があるものの、いずれにせよ差し迫った状況にあることをうかがわせる。

5月23日までに「完全に制圧される」

さらに、ニューヨーク・タイムズ紙は同文書を基に、前線部隊の防護を目的に展開しているウクライナの防空システムの一部が、5月23日までに「完全に制圧される」おそれがあるとも報じた。

防空ミサイル枯渇の懸念は、昨年10月以降に激化したロシアのミサイル攻撃を受けて生じた。米タイム誌は、ロシアが同時期以降、ウクライナの電力網をターゲットに数百発の巡航ミサイルを発射し、無人偵察機(UAV)についても数百機を放ったと報じている。