「疑似科学」に無防備なテレビ業界
それにもかかわらず、脳という未知の領域が容易に理解できそうだと思うと、多くの人が安易に飛びついてしまった。慎重であるべきマスコミ、特にテレビ業界はこういった「疑似科学」に無防備である。
一方、多くの「真っ当」であると考えられる脳の研究者たちは、普通の人々に語る言葉を持っていない。彼らは、自分が専門とするごく狭い研究領域の知識しか知らないので、「脳と心」や「脳と人生」について述べることはできないのである。一般の研究者が日々励んでいることは、実験動物を使った基礎研究を行い、いかに多くの英語論文を書くかということである。それが彼らの業績となり、自らの昇進や研究費の獲得につながる。一般向けの書籍を書いても、「アカデミック」な世界では業績とはみなされない。バラエティ番組に出演してしたり顔で発言したりすると、逆にせせら笑われる。
似非科学で儲ける健康食品業界
堂々と脳科学者を名乗る人たちの大部分は科学者とも言えないし、「脳」の研究を自らしたこともない人たちが多い。彼らの語る脳や心の話は裏付けのない「ファンタジー」であり、時には宗教じみたオカルト話になる。つまり、「脳科学」はマスコミの作り出した幻であり、似非科学なのである。
けれどもテレビ番組などのジャーナリズムは、内容を検討することもなく、似非学者たちの「学説」を何年にもわたり垂れ流してきた。番組の制作者たちは、世の中に受けの良さそうなストーリーを「脳科学」というレッテルを貼って送り続けたのが実態であり、彼らもそれをわかっているのである。
似非科学である脳科学を、マスコミが利用するのは、話題づくりや視聴率のためであったことは明らかだ。しかしさらに悪質であるのは、似非科学を利用して必要もなければ効能もない食品やサプリメントを売りさばいている健康食品業界である。
特に似非科学が大きな威力を持っているのは、代替医療の世界である。効果が不明なサプリメントや食品を、がんや慢性疾患に対する治療法として勧める代替医療は後を絶たない。ナチュラル志向のマスコミや著名人が、これに拍車をかけている。