「せっかく平日開催するのなら…」仰天プラン

一方、DAZNにはこう言いました。

「日本には今あるものを少しずつ良くしていく改善の思想がある。だからコンセンサスを取りながら一つずつ進めていく。あんまり強烈に変化を求めると拒絶反応が起きてしまう。日本のスタイルも理解してほしい」

ある意味、文化の橋渡しみたいなもんですよね。結局その日は「やりたいクラブが手をあげる」という方向で話がまとまりました。

Jリーグの職員に頼んで、翌日以降に全クラブに個別に電話をしてもらいました。「本当のところはどうなんですか」と。そうしたら「ファン層の裾野を広げるという考え方も理解はできるので、シーズンに17試合あるホームゲームのうち1試合くらいならチャレンジしてみてもいい」というクラブがJ1クラブのうち大半に至りました。

――その後、村井さんはとんでもないことを思いついちゃうんですね。

【村井】2018年シーズンの開幕カードを発表する前日に「せっかく平日開催するのなら、思い切って開幕戦からやったらどうだろう」と思いついたんです。スタッフの樋口順也という若者に持ちかけました。彼の辞書には「忖度そんたく」という言葉はなく、常に直球が飛んできます。「村井さん、日程発表は明日ですよ。それ本気で言ってます?」と聞くから「うん本気」というと「わかりました。じゃあ日程を探ってみます」と。

スタッフに命令されてチェアマンが動くという“らしさ”

【村井】彼によると、NHKやローカルテレビ局の放送予定を動かせて、金曜日の夜にスタジアムが確保できて、「開幕土曜日」などと告知をしていないJ1の開幕戦が2つだけあることがわかりました。その一つがサガン鳥栖です。そうしたら彼がこう切り出すんです。

「村井さんが本気なら、ここはチェアマンカードを切らなきゃいけない場面です。チェアマンご本人がチームを説得してください」。まるで樋口君が私の上司のようでした。

僕はちょうどその時、いち早くVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)を導入し、映像解析を一カ所で処理をしているシドニーのラグビーリーグの映像技術の視察に出かける直前だったので、樋口君から細かく指示を受けて、成田空港に向かいました。

私は空港からサガン鳥栖の竹原稔社長とヴィッセル神戸の立花陽三社長に電話して「開幕戦を平日にしてください」とお願いしました。クラブ側も初の試みに快く応じてくれて開幕直前での急展開でしたが、こうしてフライデーナイトJリーグは誕生したのです。裏側で樋口君らスタッフは両クラブの現場ともしっかり握っていたのです。スタッフに命令されてチェアマンが動く。実にJリーグらしい動きだったと思います。

こうして2018年2月23日の20時、サガン鳥栖のホーム、ベストアメニティスタジアムにヴィッセル神戸を迎えた開幕戦が開かれました。結果は1:1の引き分けだったと記憶しています。