テレビ業界にも性的虐待に加担した責任を感じる人が

「われわれは当事者なんです」

筆者にそう話したのはある放送局の社員だ。会社はBBCの報道を当然把握している。しかし、いまもジャニーズ事務所とは仕事をしている。そこから発せられたのが「当事者」としての認識だ。要は、長い期間にわたってジャニー氏の性的虐待行為──ジャニーズ事務所の組織犯罪的行為に間接的に加担してきた自覚がある。だからこそ、現在も沈黙が続いている。

たしかに事件化もしておらず、ジャニー氏は亡くなっているので追及にも限界がある。そして、もしこの問題の蓋を開れば、番組表の多くに穴が空いて放送自体が成立しなくなる事態になりかねない。彼らはそれを怖れ、そして自分たちにも批判の矛先が向けられていることを回避しようとしている。

当然のことながら、放送局にはコンプライアンス意識はある。彼らは有限の電波利用を国に認められた許認可事業者だ。放送法や第三者機関のBPO(放送倫理・番組向上機構)もあるように、NHKだけでなく民放も公共性が強い。しかし、だからこそジャニー氏の性的虐待問題に沈黙を続けるのだろう。いちど蓋を開けると、ちゃんと対処しなければならなくなるからだ。

今後、大手メディアの沈黙が破られるか、あるいは沈黙を貫いてジャニーズ事務所とともに逃げ切るかは、まだわからない。

だが、某社の上層部が議論を始めたとの情報を耳にした。また、博報堂は自社の広報誌『広告』でわざわざ「配慮」を宣言して、ジャニー氏の性的虐待についての言及を削除した(『J-CASTニュース』2023年4月4日)。そして、4月12日に行われたばかりの岡本カウアン氏の記者会見では、共同通信やNHKなどが質問をしており、今後報道が活発化する可能性もある。

撮影=プレジデントオンライン編集部
山田涼介出演のドラマなどをスタートさせるTBS

ジャニーズが問題を放置しても事態は好転しない

最後に、あえてジャニーズ事務所の視点に立って考えてみよう。

ジャニー氏の性的虐待を事実と認めることは、ジャニーズ事務所としては大きなダメージとなる。社名変更すら検討しなければならなくなる事態だ。だから簡単にその事実を認めることはできない。

だが、このまま放置しても事態が好転することはない。2004年の事実認定は大手メディアの協力で逃げ切れたが、現在はインターネットメディアが一般化している。BBCのドキュメンタリーは今後も動画配信サイトで観ることができるようになるはずだ。なにより、SNSでファンの多くもこの問題を注視し、ジャニーズ事務所の姿勢に疑義の視線を向けている。