安曇野の工場ならではのつくりこみの違い

一方で、定番であり普通であるということは差異化の源泉がないということにも通じる。この疑問に対してVAIOは安曇野の工場ならではのつくりこみの違いを指摘している。長野県安曇野市にあるVAIOの本社工場は、ソニー時代からVAIOの本拠地であったソニーEMCS長野テックであり、さらに昔は、長野東洋通信工業というソニー100%子会社のオーディオ製品の工場であり、先に述べたSMCやMSXの生産も手がけていた。

VAIOの本社、長野県、2018年11月撮影(写真=アラツク/CC-BY-SA-4.0,3.0,2.5,2.0,1.0/Wikimedia Commons

VAIOはPCメーカーとしては非常に小さな会社であるが、旧ソニーEMCS長野テックという大企業の開発生産設備を引き継いだことにより、小回りの利く企業の規模でありながら、各種測定機器などの開発製造に関わる設備は大企業の工場並みというぜいたくな開発生産体制を有している。

これまでもVAIOは、ハイエンドモデルのZシリーズを自社生産しながら、ODMで調達した製品についても一台一台安曇野の工場で検品をする安曇野フィニッシュということを行ってきた。これらも、安曇野の高い設計製造品質をVAIOの売りにしようという試みだった。

カッコイイ、カシコイ、ホンモノという特徴

さらに、今回発売する新しいVAIOも安曇野の工場で生産されるという。安曇野の品質だからこそできる、特徴を出そうと山野社長は指摘し、それはVAIOの本質的価値であるカッコイイ、カシコイ、ホンモノという特徴だという。カッコイイやホンモノというのは、VAIOの差異化を規模の経済性に影響を与える互換性を損ねないデザインで図ろうというものである。

山野社長は、驚くような性能や機能でなくても、長年使ってもパームレストやキートップが剝げないようなホンモノ感があることがVAIOの特徴だと強調している。

ソニーのバイオが製品差異化によってむしろネットワーク外部性の便益を損ねていたのに対して、この新しいVAIOの戦略はPCという同質性の高い製品カテゴリーの戦略としては正しい考え方かもしれない。しかし、本当にそれだけで定番のポジションをVAIOはとることができるのであろうか。

長年使ってもパームトップやキートップが剝がれないというのはPCをそれだけ長く使うという前提での話であるが、PCやスマホといった商品は、機能性能の進化が早く、早ければ3年程度で買い換えを迎える商品でもある。そうした商品にこのホンモノの品質はある種の過剰品質になってしまうかもしれない。