中途半端なこだわりでソニー時代のVAIOは失敗

こうした戦略に転機が訪れるのは2000年代の半ばであった。米国、日本から始まり世界中に市場を広げたVAIOは中国にも進出。VAIOのブランドイメージは特に中国で高かった。そこで、中国を中心に安価で標準的なVAIOを大量に投入するようになった。今にして思えば、ソニーからVAIOのビジネスがなくなったのはこの意思決定が原因だったのかもしれない。

ただし、数を追うことは悪いことではない。グローバルな競争の中で、トップレベルで数を競うことができるのであれば、部品調達の際のバーゲニングパワーも高くなるし、自社で効率よく生産する工程を設計することができたら規模の経済性が働いて安くても大量に販売することで大きな利益を得ることができる。

一方、ソニーのVAIOの拡販の失敗は、まず追う数が中途半端であったことと、自社生産ではなくEMSを活用したODM生産であったことから、規模の経済性が効かないビジネスだった。もちろんODMで製品を安く調達することも不可能ではない。現にアップルが全ての製品をODMで調達しつつ大きな利益を上げている。アップルがEMSを活用しながら安く製品を調達できるのは、アップル自身が製造技術の開発にも注力し多くの特許も持っているためであり、他者よりも効率的に生産するだけの能力があったためである。

しかし、ソニーのVAIOの場合、中途半端に大きな数であるにもかかわらず、ソニーのVAIOだからという中途半端なこだわりで、EMSに対して製品の仕様に多くの注文を付けたので安く調達するということができなかった。これがソニー時代のVAIOの失敗といっても良い。

「これといった秀でた機能や性能ではない」ところが良い

その後、独立したVAIOはまず日本市場を中心にプレミアムなノートPCで地道にビジネスを回復させ、その後、法人向けビジネスに力を入れることで、基本的にはニッチ戦略を採ってきた。VAIOの山野正樹社長は、営業体制の強化による法人向けビジネスの成長と、PCとしての本質的価値追求が新生VAIOの成長の原動力だと話す。

VAIO 山野正樹社長(画像=VAIO Officialより)

では、いまなぜ普通のPCを作って定番を目指すのか。定番というからには数を追うということであるし、数を追うということはそれなりの低価格である必要もある。山野社長も定番を目指すからにはそれなりの価格が求められることを発表会で示した。これは、ソニー時代のVAIOの低価格大量販売の二の舞にならないのだろうか。

VAIOの新戦略はまだ発表したばかりであり、結果は誰にも分からないことであるが、イノベーション研究者として筆者は今回のVAIOの商品戦略は良い線を行っていると考えている。

定番であり普通であるPCというのはこれといった秀でた機能や性能ではないことを示すが、かつてのソニーのVAIOが無理やりに機能的に秀でた点をWindows PCで実現しようとしたことのほうが経営学的には無理があったと言える。