10年後、サンサンさんの家族の形

いまサンサンさんは大阪・高槻のバプテスト教会で牧師をしている。教会の2階が礼拝堂になっていて、その脇に牧師用の家が併設されている。介護職の夫、大学生の長女、中学生の次女、小学生の長男、家族5人で住んでいる。養母の光子さんはすぐ近くのアパートに入居し、子どもたちが「おばあちゃん元気?」と様子を見に行く。

「10年前には考えられなかった展開ですね。勉強がむずかしくて諦めようと思ったり、病気になったり、外国人だからと差別されたこともありました。パパの仕事のこと、子どもの学校のこと、いろいろ悩んで、でもなんとかこうしてみんな一緒に」

そう言ってほほえんだ。日本人の信者さんの相談に乗り、ミャンマー人技能実習生の相談に乗り、サンサンさんは人のために毎日走りまわっている。やっぱりもう、どこまでいっても、あのお母さんの娘なのだ。

いまなお続く圧政

最後にもうひとつ聞かなければいけないことがあった。

2021年2月1日、ミャンマーで議会が開かれる日の未明、軍事クーデターが起きた。アウンサンスーチーは身柄を拘束された。彼女が自宅軟禁されるのはじつに4度目。ヤンゴンでは若者を中心に大規模な抗議デモが沸き起こり、それは全国に広がり、そして弾圧された。

写真=iStock.com/Aungraph
※写真はイメージです

「あれから1年半、さゆり先生と一緒にミャンマーのためにできることを探し続けています」

サンサンさんは渡邊さゆり牧師とともに最新情報を集めて発信し、支援を呼びかけ、集まったお金や物資をミャンマーに送り、日本政府に訴えてきた。スマホの中には、海外メディアによる報道、SNSにあげられた写真、当事者たちの証言などが大量に保存されている。

「残酷すぎて皆さんには見せられない写真がたくさんあります。金井さんは今日ここに来てくれたから、お見せしたいけど、大丈夫ですか?」

金井真紀『日本に住んでる世界のひと』(大和書房)

大丈夫ですと答えたものの、サンサンさんのスマホに入っている写真は悲惨すぎた。顔が焼かれる拷問、口に化学薬品を入れられる拷問、暴行され髪を一本ずつ抜かれて精神を病んでしまった女性、臓器売買されて内臓が空っぽになった遺体、軍に連行される直前の飛び降り自殺。すべて若い人だ。こんな地獄があるだろうか。殺した市民の臓器を売買する国軍って、いくらなんでも。途中からわたしはリアクションがとれなくなっていった。

軍は、抵抗する市民への腹いせのようにマーケットや店を次々と燃やし、村に逃げこんだ人がいれば村ごと空爆した。やっていることが、めちゃくちゃすぎる。一方的な死刑宣告で消されていく人も後を絶たない。死者は数千人にのぼり、いまなお抵抗は続いている。