企業収入を増やすだけでは、経済は成長しない

これに対して、「財政支出を増やすのではなく、成長戦略によって企業の収入を増やせば、税収も増えるので、財源は確保できる」と主張する論者がよくいます。そういう論者の発想を、先ほどの水槽の絵で示すと、図表6のようになるかと思います。

中野剛志『どうする財源――貨幣論で読み解く税と財政の仕組み』(祥伝社新書)

この図のように、排水した水を水槽に戻したところで水槽の水の量は増えないのと同じで、政府の税収や企業の収入が増えたところで、貨幣の総量は増えません。それどころか、政府も企業が債務の返済を進めれば、貨幣の量は減っていってしまいます。

政府や企業が信用創造を通じて債務を増やさなければ、貨幣の量は増えません。「成長戦略によって企業の収入を増やせ」と主張する論者は、そもそも、企業に入ってくる貨幣がどこからどうやって生まれたのかについて、つまり信用創造について、考えが及んでいないのです。

デフレ下で企業が債務を増やせないでいる中で、政府が債務を増やして歳出を拡大しなければ、いくら成長戦略によって企業の収入を増やしても、経済は成長しないのです。

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