自民党は「ちゃぶ台返し」できる規定を忍ばせた

前述した通り、日銀法が改正された当時の橋本政権は「自社さ連立」政権だった。「非自民」の細川政権発足で野党に転落した自民党が、55年体制下で敵対した社会党などと連立を組む、という驚くべき方法で政権に復帰して、まだ間もない頃。政権内の意思決定にも社会党やさきがけの意思を無視することができず、ある意味自民党が最も「好き勝手がやりにくかった」時代だったわけだ。だからこそ、政府からの独立性を重視した法改正が可能だったと考えられる。

しかしそんな時でも自民党は、こうした法改正の理念を「ちゃぶ台返し」できる規定を、さりげなく忍ばせておいたのだと筆者はみている。いつか党勢がさらに回復した時、自分たちの思うに任せなかった時代に「決めざるを得なかった」政策決定を「なかったこと」にするために。

アベノミクスとは、つまりは自社さ政権時代に「21世紀の金融システムの中核にふさわしい中央銀行を作る」(日銀のウェブサイト)という政治理念を、法に触れない範囲で大きく「ちゃぶ台返し」したものだと言っていい。

俯瞰で見た日本銀行本店(写真=Norio NAKAYAMA/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

日銀は牙を抜かれて「おとなしい番犬」になり下がった

日銀だけではない。民主党から政権を奪還して以降の10年余り、第2次安倍政権以降の自民党政治とは、冒頭に書いたように「政府からの独立性を強く求められてきた機関を、政権が力でねじ伏せて異論を封じる政治」だったのではないか。

その高い独立性から、時に政府の方向性に異を唱えることも役割の一つとされていた機関から、次々に「牙」を抜いて(彼らにとっては少しでも自分たちに異を唱えられることは「政府に牙を向く」行為としか受け取れなかったのだろう)「おとなしい番犬」に変質させていく。そうすることで政権(行政)がフリーハンドを確保し、歯止めの効かない「やりたい放題の政治」を実現する。それが第2次安倍政権以降の自民党政治だ。