集中力の高め方

「短い時間の対局は最初から最後まで、全力で走り切るという感覚です」――集中力を維持するコツは? と聞いた本誌に、羽生九段はひょうひょうとした口調で応じた。

撮影=金子光博

「対局の前には、こんなふうに進むかもしれないと考えたり、シミュレーションをしたりします。でも、だいたいはシミュレーション通りには進まないので、予想外のことが起きても対応できるよう、心の準備をしておきます。つまり、『予想外のことが起きるものだ』と考えておくことです」

将棋日本シリーズは持ち時間の合計が1人15分程度の短い対局で、持ち時間を使い切ると1手30秒未満で指さねばならず、時間切れは即負けとなる。集中力が途切れそうになったときにすることはあるのだろうか。

「失敗したなと思うときもありますが、失敗したことにとらわれてしまうと時間がなくなってしまうので、意識して気にせず目の前のことに集中していきます。『何でこんなことをしたのかな』と理由を考えたくなってしまうのですが、過去は振り返らない。この一点に尽きます」(羽生九段)

同じように集中するコツについて藤井竜王に聞いてみた。やはり最初の“入り口”が重要だと藤井竜王は話す。

『プレジデントFamily2023年冬号』の特集は、「読解力」の家庭での伸ばし方。「文章を読める子が“新受験”を制す」「なぜ算数の“文章題”だと解けないのか」「食いっぱぐれないために大事なこと 自分で稼げる子にする!」などを掲載している。

「集中力は、何時間も続くものではありませんから、普段の生活の中では無理せず、気が向かないときはやらずに、集中しやすいと思ったときにしっかり勉強なり研究なりをするのが大事かと思います。ただ今回のような1時間程度の早指し戦の場合はそういうわけにいきません。対局前から集中力を高めておくことは大事です。どう展開するかをある程度シミュレーションというか、想定しておくと、いざ対局が始まってからも将棋に入り込みやすいです。ただシミュレーションといっても相手の出方をきっちり予測するというほどではなく、頭の中で軽く『こういう展開もありえるのかな』と考えておく程度です」

2人の方法はほぼ一致していた。考えるべき場面を迎えてから、一気にスイッチを全開にして集中力を高めるのではなく、事前にシミュレーションをして頭も心も温めておく。そうすることで、最初から一定の集中力を保って取り組めるということだ。また未来の展開を決めつけずに、幅を持たせて考えておくことで、ハプニングにも柔軟に対応できる。

習い事の発表会や、スポーツの試合、実力テストなどのときにもこうした方法は役立つかもしれない。