“ダイヤ改悪”もやむをえないコスト問題
特急車両はさらに高く、以前成田エクスプレスに投入されていた253系が1億6600万円。6両編成で9億9600万円となる。新幹線はさらに高く、もう撤退してしまったがオール2階建てのE1系車両が1両3億6000万円した。
12両編成で走っていたので、1編成43億2000万円にも及ぶ。こうなると、もはやマンションが1棟買える金額だ。そうして買ったマンションに入居者が集まらなければ大家は大いに苦悩するわけだが、同様に巨額を投じて座席がガラガラでは経営が立ち行かなくなるのは自明だ。
購入時だけでなく、維持費もかさむ。年間で1両あたり700万円以上かかると見られ、1編成では7000万円。保安装置が高度化しており、修理となれば多額のコストがかかる。
首都圏の鉄道会社で役目を終えた車両が地方鉄道へ譲渡されることがあるが、それほど車両の購入は負担が大きい。また、譲り受けようとしても路線の環境が違うため、受け入れられないという状況もあり、既存の車両を使い続けるよりほかないこともしばしばだ。
1本目で石勝線(新夕張~夕張間)の年間売上が1000万円と述べたが、そこに1億円の車両を1両入れると、車両金額をペイするのに数十年かかる。廃止がすでに決まっていた路線で使用していた車両が故障し、修理がかなわなかったため廃線が早まったことがあるが、金額を考えればもっともな話である。
話が少々脇道に逸れたが、要するにダイヤの決定、改正には乗客数の増減だけではなく複合的な理由があるということだ。一部の利用者にとって不便になったダイヤ改正をダイヤ改“悪”と揶揄する声もあるが、乗客減=売上減に結び付くようなことを一企業がするわけがなく、やむをえない事情がある。
特急の本数を減らすのは苦渋の選択
2019年のJR東日本の旅客運輸収入は1兆2833億円であった。そのうち「料金」に分類される収入が3483億円に及ぶ。この料金とは特急料金やグリーン券、指定席料金、寝台料金を指す。旅客運輸収入の27%を占めるこの売上は、鉄道に付加価値をつけることで得ているもので、利益の源泉といってよい。
東海道新幹線を運行するJR東海にとっては生命線ともいえるもので、旅客運輸収入1兆3656億円に対し、料金は5518億円。その割合は40%にまで及ぶ。
そのため、普通列車の本数を減らすより、特急の本数を減らすほうが鉄道会社としては経営上のダメージになる。一方で、特急車両は普通列車の車両に比べて車体価格がおよそ1.5倍かかる。また、維持補修にかかるコストも割高だ。