「地盤」「看板」「鞄」何も持っていなかった
そこまでやるのは、叩き上げの厳しさがあるからです。私は裸一貫。地盤・看板・鞄の「3バン」を持たないスタートでしたから。地盤とは、後援会や支持団体といった組織。看板は知名度。鞄とは資金力のことです。
中選挙区制だった頃は、同じ選挙区内で自民党の候補同士が熾烈に争うので、党内でも仲が悪かったものです。平成8年から小選挙区制になり、候補者同士から党と党の戦いに変わったので、いまでは看板はあまり関係ありません。選挙資金は、ポスター代など国がある程度の面倒を見てくれるので、さほどかからなくなりました。
身内の争いがなくなった分、選挙は楽です。その代わり、政治家の器量や迫力が薄れて、小粒になってしまった。競争原理が働かないから、切磋琢磨がないんです。
次第に目立つようになったのが、世襲議員です。親から「3バン」を譲られて、苦労もなく当選していくのを見れば、うらやましい限りです。
日本経済新聞が、平成8年以降の衆院選の世襲議員について調べた結果を、記事にしています(令和3年10月17日)。全候補者の中で世襲の割合は13%ですが、比例復活を含めた当選率は80%に達したそうです。新人候補の当選率をみると、非世襲が1割ほどなのに対して、世襲は6割。ついでにいえば、世襲候補は7割が自民党から出馬しているとのことでした。
安倍元総理と岸田総理は世襲議員の成功例
最近の世襲議員を見ていると、苦労をしていない分、人の痛みがわからず、人の情けに欠ける人もいます。政治は本来、立場の弱い人や恵まれない人のためにあるんです。
一方で、世襲にも長所はあります。政治とは何かという基本を子どもの頃から学べるし、親の人脈を引き継ぐこともできるからです。
亡くなった安倍晋三元総理は、3代目でした。総理になれなかった父・晋太郎先生の苦労や政治の厳しさを間近に見て、その知見を活かしたから、天下人になれたと思います。
岸田文雄総理も、同じく3代目です。お父さんの文武さんは早くに亡くなりましたから、安倍元総理と同様、父親の達成できなかった夢を自分が果たさなければという思いの中で、生きてこられたはずです。