自立した生活圏に必要なもの

これまでの「ベッドタウンとしての沿線住宅地」と、「立ち寄り・時短志向の商業を集めた駅ビル」からできた「都心通勤の後背地」ではなく、「自立した生活圏」としての沿線生活街が求められる。

居住機能に加えて、一定の職・遊機能が必要だ。具体的には、各家庭では対応しきれないテレワーク対応のサードワークプレイスや、ランチ対応のチェーン店ではない飲食店などが求められるのではないだろうか。

居住地「自由化」、暮らしのRE・デザインに対応した沿線生活街がこれからの必需品になるであろう。

鉄道会社が考えるべきは「街の駅」

「自立した生活圏」づくりは、価値観の変遷には対応できるが、「旅客数の減少」に歯止めを掛ける訳ではない。鉄道各社には、都心通勤に変わる方策が必要なのだ。

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次世代の沿線価値戦略として、「遊動創発」が不可欠だと考える。

これまでの阪急モデルであれば、巨大資本を元に、ワンパターンの生活利便施設を中心とした「鉄道会社主導開発」も可能だ。しかし地域の魅力を発掘・可視化していくには、冒頭の事例で示したように、沿線住民の主体的な関わりを前提にした「支援型開発」でなければ、継続・発展できないと想定される。

遊動創発のためには「道の駅」がベンチマークになる。地域の産品や魅力を駅で発信し、自由時間が増えた人たちが、気分転換を含めてプチ移動し、下車したくなるような設営が駅、もっと言えばホーム上に必要ではないだろうか。

日常の生活利便機能に加えて、街の魅力を集約して発信する、ショップ&ギャラリーで構成される、本当の意味での「街の駅」が求められる。

これからは、各エリアの特徴を表現したさまざまな「街の駅」が沿線上に連なることで、「遊動創発」し、旅客数の増加を目指すのだ。これまで通勤利用者の日常生活利便機能を、時短という訴求ポイントで支援してきた駅ビルも、住民の「プチ目的地」としての機能に加えて、来街者誘致のための「街のゲート」になる必要がある。

そして、「街のゲート」で発信される街の魅力は、従来のシビックプライド醸成志向ではなく、来街者誘発志向が求められるようになるのではないだろうか。