では、NHK改革の本丸は、というと、「報道機関としての使命」にほかならない。

放送法の第1条には「健全な民主主義の発達に資するようにすること」と、しっかりと明記されている。これを達成するためには、NHKが「公共メディア」として、ネット時代にふさわしいジャーナリズムやメディアのあり方を追求し、具体的に示さなければならない。

政治との距離が近いといわれるNHKにこびりついた悪しき体質をこそぎ落とし、少数意見も十分に反映することを心がけ、「国民のための報道機関」になることがもっとも肝要な点だ。政権の御用機関である「国営放送」になりかねないリスクは、自ら排除しなければならない。それこそがNHK改革の核心なのである。

総務省が求める「業務のスリム化」「受信料の見直し」「ガバナンス強化」の三位一体改革は、第1条を達成するための環境整備にすぎない。

つまり、NHKのトップに求められるのは、経営手腕や運営手腕よりも、「公共メディアとは何か」を明示し実践する能力なのである。

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「親近感」程度では、NHKのトップは務まらない

長く国の金融政策を担ってきた稲葉氏に、報道分野の経験はない。まして「公共放送」や「公共メディア」とは無縁だったといっていい。

稲葉氏は、会長に選任された直後の12月初旬の記者会見で、「不偏不党、公平公正な報道を確保するNHKに親近感を覚える」と述べたが、「親近感」程度のゆるさで、最高経営責任者(CEO)に近い最高執行責任者(COO)であるNHKのトップが務まるだろうか。

「質の高いコンテンツをつくる環境をつくり、強靭な財務体質を形成するため、先頭に立って頑張っていきたい」と抱負を語ったが、これから3年間の舵取りを託す新会長に求められているのは、そこではない。

肝心のNHKの将来像については「環境が大きく変化する中で、公共メディアとしての役割をどう果たしていけばいいのか、答えはまだ出ていない」と、確たるビジョンを持ち合わせていないことを露呈してしまった。

松本剛明総務相は「NHKの改革に向けて強いリーダーシップを発揮していただくことを期待している」とエールを送ったが、稲葉会長にNHK改革の本丸に切り込む覚悟は乏しいように映る。

ネット時代に適合した「公共メディア」になれるのか

時あたかも、総務省では「公共メディアとは何か」をめぐる議論が真剣に交わされている。

「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」が昨夏にとりまとめた報告書を受けて、昨秋から有識者によるワーキンググループ(WG)が、制度面を中心に具体的な検討に入っている。