魅力的な職場もライフスタイルもない

前出の天野さんは、男性を上回る「女性の東京一極集中」の理由を「卒業後の仕事の問題が大きい」「女性たちが就職したいと思えるような魅力的な職場が地元にない」と分析し、地方の少子化とは人口問題というよりも労働問題である、と鋭く指摘する。

若い女性が「ここ(地方)にいたい」と思える職や職場、幸せと感じられるライフスタイルがそこにはないのだ。地方自治体が、東京に向かわず地元に残った女性(相対的に保守的な価値観で、もともと出産傾向にある女性)を相手に「ママを応援しよう!」と漠然とした子育て支援の充実を図るにとどまるのは、少子化対策としてズレている、と天野さんは手厳しい。

「多様な女性を失った代償」としての出生率

同じ女性人口移動の視点で「地方の男性化、都会の女性化」と呼ばれる問題を扱っているのは、十六総合研究所による『提言書2022「女子」に選ばれる地方』(岐阜新聞社)の基調論文「若い女性はなぜ消えるのか?」である。執筆者の十六総合研究所 主任研究員・田代達生さんは、岐阜県という地方の側から見た圧倒的な女子の東京流出を「人口の再生産という面からするといわば最悪な形」と書く。

地方自治体の戦略的KPIとして「合計特殊出生率1.8以上」という数値目標が設定されるが、出生率が全国最低の東京に比べて数値の高く出る地方が本当に効果的な少子化対策を行えているわけではない。

田代さんは「少子化、出生率に着目すると問題の本質がゆがむ」「現実に起きている地方の合計特殊出生率の高さは、リベラルで多様な価値観を持つ女性たちが都会に逃げていき、保守的な女性だけが地方に残った結果(多様な女性たちを失った代償)として達成されている」「多様な女性たちを視野に入れないで、地方が持続可能とはとうてい思えない」と警鐘を鳴らす。そしてその原因が保守的な家族観と、地方へ根強く残されたジェンダーギャップにあると指摘する。

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