自分をコントロールできない病気

自分がやってきたことをさらりと口にする彼らが、私にはちょっと驚きだった。

大石クリニックの院長・大石雅之は、性嗜好障害とは、性欲を抑制できないことだと言う。

「成人女性や十代の若い女の子を性欲の対象と見て、その欲求を抑えられない。それが性嗜好障害。5歳くらいの幼い女の子を見て興奮するやつもおる。これを小児性愛と言うんやけど、性的な嗜好、欲求を抑制できないという意味では盗撮や痴漢も同じ。痴漢なんてね、一流大学を出て、一流企業に勤めているサラリーマンも大勢おる。そんなことやっちゃいかんと頭ではわかっているのに、朝、満員の通勤電車に乗る。好みの女性を見かける、すると、何かに取り憑かれたかのようにふらふらっとその女性に近づいて、気がついたときにはもう身体を触っとる。自分をコントロールできないんよ、だから病気なんやね」

写真=iStock.com/Tinnakorn Jorruang
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精神科医らしくない精神科医

広島出身の大石は、ところどころにお国言葉が混じっていた。地声もかなり大きい。もう20年以上も前になるが、私はオーストラリアに渡り、ベトナム帰還兵が抱えるPTSD(心的外傷後ストレス障害)や彼らの治療、カウンセリングを続ける精神科医らを取材していた。数人の精神科医に会って話を聞いたが、彼らの話し方はまるで詩でも朗読しているかのように、文節を丁寧に切り、穏やかに話すのが常だった。仕事柄そんなふうに話すようになるのだろうと思っていたが、大石は正反対だ。診察にもジーンズ姿で臨み、白衣も着ていない。見た目も、話し方も、およそ精神科医らしくないのである。

だが、この道30年のベテランは、あえてそうやって患者と接しているのかもしれなかった。扉が少し開いた診察室からは、そうそう、そうなんよと患者の言葉に同意しているような声も聞こえれば、逆に、言ったとおりじゃろ、それがいかんのよと患者を叱責するような声も聞こえてくる。広島弁に馴染んでいないと言葉遣いが乱暴に聞こえなくもないが、少なくとも、よそ行きの言葉で語られるよりは、本音で患者とぶつかろうという姿勢は伝わってくる。だから、大石と患者の距離も近く感じるのだ。広島弁で話すのは大石の性格の一端が出ているだけなのかもしれないが。