自治体に「違法である」と抗議することが大切

小学生と中学生の子どもを抱え、非常勤職員として働く女性は、国保料と市民税に滞納があった。そしてある日、銀行口座に振り込まれた児童扶養手当を引き出しに行ったところ、全額を引き出せなかったという。振り込まれたはずの児童扶養手当は「銀行預金」として差し押さえられていたのである。だが、これは違法だ。

「例えば前橋市は、滞納する市民について、その所有する不動産や自動車の資産価値ばかりでなく、すべての銀行に対して照会することにより、銀行預金口座の有無やその残高、いつが給料日なのか、生命保険に加入しているのか、解約返戻金はいくらか、勤務先および給与の手取り金額、年金や児童扶養手当などの給付金の受給の有無およびその金額など、一切の財産に関する事項を調査することが法で許されているし、簡単にこれらの情報を取得することができます。しかし給与については全額これを差し押さることは許されないし、年金も同様です。児童手当や児童扶養手当、生活保護費のような各種の給付についても、差し押さえが禁じられています」(仲道氏)

もしあなたが差し押さえ禁止財産を差し押さえられたら、自治体に「違法である」と抗議することが大切だ。しかし独力では強硬姿勢の自治体相手だと交渉が難航しやすいため、困った時は弁護士や税理士らの専門家で構成される「滞納処分対策全国会議」や「滞納相談センター」などに相談してほしい。

食費を一日700円まで切り詰めても、納付可能額はゼロ

「滞納相談センター」で相談員を務める税理士の角谷啓一氏は、「役所は『納めろ』しか言いませんが、それぞれの実情、納められない原因は何か、ということをまずは把握してほしい」と強調する。

筆者撮影
「滞納相談センター」で相談員を務める税理士の角谷啓一氏

「昨日も50代後半の男性の相談がありました。建設業を営んでいる方ですが、コロナ禍で元請け先の企業の経営状態が厳しく、仕事が減って今は月の所得が10万にも満たないのです。奥さんがパートで月7、8万円の収入を得ていますが、お子さんが4人もいて、国保料を納付するどころか食っていくのが厳しい状態」

しかもこの男性は、10年前から国保料を含めた税金を滞納しており、その額、約200万円にのぼる。延滞金も200万円近くで、総額約400万円である。延滞金の利率は年々少しずつ下がっているものの、現在は8.9%(納期限から2カ月を経過した日以降)。しかし8年前には年14.6%であったため、男性はこの頃の延滞金もかさんでいるとみられる。

「滞納は、男性一家の一番上のお子さんが大学生になる頃から始まっています。子供が4人もいて、その均等割(国保にだけある世帯人数に比例して保険料が高くなる仕組み)もあって、当時の国保料が月額6万8000円。一番生活費がかかる時に最も国保料が高くなるんです。納められるわけがありません。現在も、事業の収支計算、一家の生活費を計算して、食費を一日700円まで切り詰めても、納付可能額はゼロなんです」(角谷氏)