ダブル、トリプルワークをしても貧困なのは自己責任ではない

携帯の充電がなくなりかけたとき、意を決して相談ダイヤルに連絡すると弁護士とつながり、「新型コロナ災害緊急アクション」事務局長に取り次がれた。5月18日、すぐさま1週間分の生活費と宿泊代4万5000円(返済不要の一時金)を渡され、やっと落ち着きを取り戻した。その後、生活保護を申請したところ、6月初めに受給が決定しアパートに移った。

樋田敦子『コロナと女性の貧困2020-2022 サバイブする彼女たちの声を聞いた』(大和書房)

現在は家賃5万4300円のアパートで独り暮らし。支給される生活扶助費で光熱費、食費、携帯代などを払うと、残りはわずかだ。ケースワーカーのすすめで、心療内科を受診すると、複雑な生い立ちが原因でPTSDと診断された。父から虐待を受け、中卒の16歳で家出。人の何倍も働いて子ども2人を育て、1人は独立、1人は元夫のところにいる。働き詰めだったので、静養するように医師から言われている。

「生活保護は受けたくなかったけれど、コロナの影響で雇用が不安定になったのでしかたなかった。しかし離婚して置いてきた子どもたちへ月に10万円以上送金してきたので貯金ができなかった。やりくりが下手だったのです」

田中は自己責任を口にするが、ダブル、トリプルワークをしても貧困なのは自己責任ではない。公的支援につながれない社会制度の不備もある。

9月末、田中は就職して収入を得たため、生活保護費も減額。彼女が生活保護から脱する日も近い。

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