追い出した前任者と「同じ穴のムジナ」

この「ワンマン経営者の後継者」が陥りがちな“罠”に鴇田氏もハマっていた恐れがある。調査報告書によれば、鴇田氏の前任者は代表取締役社長として約30年にわたって君臨していたことから、「多くの役職員から、いわゆるワンマン社長として絶対的な存在と認識されていた」(調査報告書)という。2009年にそのワンマン社長に解任を要求した取締役の中に鴇田氏がおり、そのまま社長の座に就いたのである。

もちろん、鴇田氏はワンマン経営者に引導を渡した側なので、前任者を「反面教師」的に見ていた部分もあるだろう。ワンマンにならないように自制をしていたかもしれない。しかし、「前ほどひどいことをしなければ、多少の公私混同も許されるのでは」という「慢心」があった可能性もゼロではないだろう。

なぜかというと、残念ながら周囲の人々の目には、鴇田氏のことを前任者とそれほど変わらない「ワンマン経営者」と映っていたからだ。

日産も「モノが言えない企業風土」だった

調査報告書によれば、多くの役職者が、鴇田氏のことを前任者の跡を継ぐ「絶対的な存在」だと認識していたという。つまり、この40年以上に及ぶワンマン体制が「モノが言えない企業風土」を形成したことで、多くの役職たちが、鴇田氏の不適切な経費使用を見て見ぬふりをしたというのだ。

カルロス・ゴーン氏(写真=CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

実はこれ、「ワンマン体制に慣れた会社あるある」だ。例えば、日産の元会長のカルロス・ゴーン氏は絶対的な独裁者として君臨し、会社を好き放題に私物化したと言われているが、なぜ逮捕されるまで、社内の側近たちがそれを諌めなかったのかというと、日産にもともと「トップにモノが言えない企業風土」があったからだ。

ゴーン氏がルノーから送り込まれる前から、石原俊氏などワンマン社長が君臨して、会長という立場になってからも絶大な影響力を誇っていた。こういう企業カルチャーが根付いていている会社で、トップの不正は告発できるわけがない。

そして、この「モノが言えない企業風土」をさらに悪化させるのが、2の《周囲を萎縮させるような「権威」がある》である。ただでさえワンマン社長の後継者としてモノが言いづらいところに、その経営者に「権威」が加われば、もはや誰も口出しができないアンタッチャブルな存在になってしまう。