地区には給与水準の低い労働者たちが多く住む。勤務先工場がゼロコロナで閉鎖されたことで給料が支給されず、人々は収入源を失った。さらに封鎖によって地区内では食料価格が高騰しており、二重苦にあえいでいた。
米ジョンズ・ホプキンス大学のホファン・ハン博士(社会学)はBBCの取材に対し、ゼロコロナ政策は明らかな失策だとして警鐘を鳴らしている。「この2年間で習氏は、ゼロコロナ政策の実施によって自身を窮地に追い込んだのです」と博士は述べる。
習政権が頼る「世界で最も洗練された」検閲システム
政策が生んだ不都合な実態を隠したい習近平政権は、このようなデモが発生するたび、動画の拡散を必死に食い止めてきた。
中国国内からインターネットに接続する場合、グレート・ファイアウォールと呼ばれる政府の中継装置を経由する必要がある。中国共産党にとって都合の悪いサイトは、この段階でアクセスが遮断される。
こうして世界から切り離された国内ですら、自由な議論ができるわけではない。自動化された監視ソフトと人手を投じた検閲が実施され、政策の失敗やデモの発生に関する動画と書き込みが投稿されるや否や、わずか数分のうちに削除される。
ニューヨーク・タイムズ紙は皮肉交じりに、中国では「世界でも最も洗練された類いの」検閲装置が稼働していると報じている。
効果はてきめんだ。北京で発生したデモの動画を拡散しようとした26歳女性は、投稿が瞬く間に削除されてしまったと悔しがる。AP通信に対し、「多くの友人たちが上海でのデモの動画をシェアしていました。私もシェアしたのですが、あっという間に削除されてしまったのです」
当然、TV放送も検閲の対象となっている。米ワシントン・ポスト紙は、中国で放送されるサッカー・ワールドカップの映像において、スタンドのサポーターたちを捉えた映像が不自然に少ないと指摘している。
マスクをせずに密集している観客を映すと、なぜ中国ではマスクが必要なのかという疑問が生じるおそれがある。民衆の意識を刺激しないよう、観客席の映像を避けているとみられる。
規制をかいくぐる市民たちの知恵
こうした検閲は、政権の失敗を隠すうえで一定の効果を発揮してきた。
だが、ウイグルで起きた不幸な高層マンション火災をきっかけに、人々の怒りは燃え上がった。いまでは自動化された検閲システムでさえ追いつかないほどの速度で、デモの動画が続々と再投稿されている。