「拍手と握手のある会社」はいい会社である
【村井】例えば、もう亡くなりましたが女優の森光子さんが「放浪記」の舞台ででんぐり返りをやる。彼女はもう何千回もでんぐり返りをやっているわけですが、その場を共有している観客は「失敗しちゃうんじゃないか」とドキドキします。フィギュアスケートなんかも同じですよね。ここでジャンプすると分かってはいるけど、ライブで見ているとやっぱりドキドキするし、成功すると「やったー」と拍手してしまう。
一方でCDを聴いているときは、ちゃんと編集されていて再現性が保証されていて結末も見えている。同時進行のドラマではないので、感動はしても、拍手は出ないんですね。ライブ感がある時に拍手は起きる。
――村井さんがリクルート時代に、どこかのインタビューで「拍手と握手のある会社はいい会社」とおっしゃっていた記憶があります。
【村井】リクルートの子会社で「Great Place to Work」という組織がやっている「働きがいのある会社ランキング」というのがありまして、私が社長をしていたリクルートエージェントが2007年版で1位に選ばれたことがあります。もちろん私の功績ではなく、これまでの先輩諸氏が築いた素晴らしい風土なのですが、その時の記事で日経ビジネスが「拍手と握手の会社」という見出しをつけてくれました。
いいことがあればみんなで拍手し、仲間と握手したい
【村井】私は人材関係の仕事をしてきたので、ずっと人に「いい会社」を紹介したいと思ってきました。ではどういう会社が「いい会社」なのか。給料が良い会社なのか、休暇や寮社宅が完備している会社なのか。いろいろ考えたんですが、私の場合、「職場で拍手がいっぱい起こる会社はきっといい会社だ」と思うようになりました。何かいいことがあるとみんなで拍手をする。拍手をしている近くに仲間がいれば自然と握手になる。
毎日、再現性が保証されていると「今日も昨日と同じ1日だ」「また同じ1日が流れていく」という感覚になり、なかなか拍手は起こりません。私はなるべく「拍手のある会社」を紹介したいと思って人材の仕事をしていました。
――リクルートには昔から「垂れ幕文化」というのがあって、新人が初めて受注したとか、どこかのチームが目標を達成したとかいう時に天井から垂れ幕が下りて、みんなで「おめでとう!」とやる習慣がありました。今、本社は東京駅前の高層ビルに入居していますが、担当者が「垂れ幕を垂らせるビルしか借りません」と言っていました。中には天井が痛むのでダメという大家さんもいるらしいです。