誰かが「同調圧力」に悲鳴を上げていないか

【中野】自分は日本で育ち、長く住んできましたから、日本で暮らすのがいいなとやはり思います。閉塞へいそく感があると思うことも、難しいと思うこともしばしばですけど、自分なりのやり過ごし方を見つけたいなと思うんですよね。

【鴻上】そもそも、日本的、西洋的という以前に、本人がどう感じているか、苦しんでいる度合いが大きいかどうかが大事なことですよね。

体育会系のきずなが一番で、いつも集団を作っているのが大好きな人たちがいて、構成員の誰もそれに重圧を感じていなかったり、負担になったりしていなければ、それはありだと思います。でも誰かがすごく無理をしていて、その「同調圧力」の強さに悲鳴を上げているなら、そのままじゃいけないんです。

言葉は通じないのが当たり前

【中野】日本人は欧米との比較が好きすぎるところがあって、ちょっと辟易へきえきしてしまうこともありますが、あえてそれを承知でいうと、欧米人のコミュニケーションのいいところは、はっきり言っても怒られないことかな?

コミュニケーション自体は日本人のほうがハイコンテクストな分丁寧で輻奏ふくそう的でもあるし、洗練されている部分があります。

欧米の国の多くは、移民排斥運動も激しいし、離婚率も日本より高く、治安も悪い。欧米のコミュニケーションをまねしろ、という論はいつもあるのですが、無理にやってもあまりメリットはない気がします。

気持ちが通い合う美しい瞬間

【中野】私が海外の研究所に行って学んだことは、そもそも言葉は通じないもので、通じないのが当たり前と思っておくほうがいいということ。

日本人同士でも通じるようで、通じないことってありますよね。考え方も違うし、単純に「コーヒー」という言葉からイメージするものも、フランス風の濃い味なのか、アメリカンなのか、熱いのかほどよくさめているのか、まったく違っていることがある。

それでいて、何かが通じ合って、コミュニケーションを取れてしまっているというのも結構面白いことだし、そんな中で気持ちがもし通い合うことが一瞬でもあったら、本当に素敵で、美しい瞬間だなと思うんです。

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