そのサービス・商品を利用したいという顧客はいるか

恥ずかしながら自分自身もビジネスを始めたての頃、この落とし穴にハマった経験があります。

自分たちのやり方は“リーン・スタートアップ(米国の起業家エリック・リースが提唱した事業立ち上げ手法)的”なのだと解釈して、「なんとなくこんなものがあったら便利だよね」「こういうユーザーを集めたら、その人たちにこんな商品を売ってマネタイズできるよね」くらいの解像度でせっせとプロトタイプを作成し、ユーザーインタビューを実施。

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上々のリアクションが得られたところで、ビジネスとして採算の合う価格(事業者都合の値段)を設定して、勢いよくローンチ。しかしながら、実際にお金を払ってくれる顧客は一切集まらず、やむなく撤退。このようなことを何回か繰り返し、気づいてみれば会社の口座残高は倒産寸前というような羽目に陥りました。

このような経験から私は、常にExitシナリオから全てを組み立てる重要性を学びました。極論ですが、プロトタイプがなくとも、お金を払ってでもそのサービス・商品を利用したいという顧客さえ見つかっていれば、ビジネスが成立する一番大事な要件は満たしているわけです。

一方で、どんなにキャッチーなアイデアであろうと、世界初の試みであろうと、著名なベンチャーキャピタルからの出資が決まろうと、最終的に顧客の財布からお金を引き出さない限りはビジネスは成立しません。

仕事は先に最終的な完成イメージを具体的に描き切る

そして皆さんに是非ご理解いただきたいのが、仕事の進め方についても全く同じことが言えるということです。

つまり仕事は最終的な完成イメージを具体的に描き切ってから、そのパーツを集めるような順序で進めていくのが鉄則です。これをするとしないとでは、かかる時間も最終的な仕事の品質も大違いです。

例えば、多くの人が携わるであろう資料作成。まず考えるべきことは「この資料を作成してどんな目的を達成したいのか」ということです。

状況を報告することが目的か、どのプランで行くか判断をしてもらうことが目的なのか、はたまた自身の腹案があり結論をそこに誘導することが目的なのか。目的によって適切な資料の構成や含めるべき情報は全く変わってきます。

これはメール一通を送る場合でも例外ではありません。部署や会社を跨ぐようなプロジェクトに関わっていれば、他部署のメンバーや社外のステークホルダーとのメールのやり取りは日常茶飯事です。

このような時に「ちょっと自分・自部署・自社内の業務が逼迫しているので、今月末に提出予定だった資料が来月末にずれ込みそうです」という連絡をしている人をよく見かけますが、このような仕事の仕方は三流以下だと言わざるを得ません。

野原秀介『投資思考』(実業之日本社)

自分方のタスクが遅延したことで、相手方と当初合意していた予定にはどのような影響があるのか、またリカバリーは効くのか/効かないのであれば再合意する必要がある事柄はなんなのか……などプロジェクトの完了というExitイメージに向かって仕事が出来ているのであれば当然含まれる内容が一切ありません。

より一般化して言えば、「このメールを送信することで、どのような状態を作り出したいのか」(=Exitシナリオ)を念頭に置いてから仕事に取り掛からないのであれば、その仕事にかけた時間は全て無駄であると言えるでしょう。