多様性への試みがいくつかの地で進み、05年10月に開花する。山形県川西町に、中高年に配慮した品揃えや店構えの「ローソンプラス」の実験店が開く。通路を広げ、楽な態勢で手が届くところに、入れ歯の洗浄剤や白髪染め、肌着、和菓子、地元産の野菜が並ぶ。飲食をしながら会話が楽しめる休憩スペースもある。周辺住民の4割以上が50歳以上、とのデータで踏み切った。
全国で、店周辺の世代構成や競合店の位置などを調べ、新しい店づくりへの「カルテ」をつくっていく。実験は東北から関西、四国、九州へと広がり、次第にノウハウが蓄積される。07年、本格展開の号令を出す。ノウハウは、中核の「青いローソン」にも、移植された。
もちろん、オーナーたちの共感を広げなければ、戦略は進まない。各地で15人、20人と集まってもらい、3時間、濃密な意見交換を重ねた。年間に30回から40回。ローソンには、脱サラや商店をたたんで挑んだオーナーが多い。スタート時でも全体の6割、いまでは8割が、そうした面々だ。
その意気込みから、簡単には「はい、そうですか」とは言わない。そんな彼らに、言いたいことはいっぱいあった。こうやれば必ずうまくいく、と口にもしかかった。でも、それを先に言ってしまえば、共感は遠のく。オーナーたちが心を開き、出てきた思いを受け止めてこそ、同じ目標に向かうことができる。そう自戒し、全国を巡った新浪流。やがて多くのオーナーが、社長がなぜ自ら巡回してきたかを理解していく。
「説之難、在知所説之心、可以吾説當之」(説の難きは、説く所の心を知りて、吾が説を以てこれに当(あ)つべきに在り)――遊説の難しさとは何かと言えば、「説く所」すなわち話をする相手の思いを知ったうえで、それに当てはまるようにこちらの話を持っていく点にある、との意味だ。中国の古典『韓非子』にある教えで、新浪流はこれに重なる。
新しいコンビニ像を確立するために、別の登り口も用意した。山形に「ローソンプラス」ができる5カ月前、高齢者や主婦層向けに生鮮食品を小分けして売る「ストア100」の1号店を開く。ペットボトル入りの飲料も、雑貨類も、約3500品目の大半が税抜きで100円。07年には生鮮コンビニを800店近く展開する99プラスと業務・資本の両面で提携し、翌年には子会社にした。いまでは「ローソンストア100」の名に統一し、都市部を中心に1000店を超える。「ローソンプラス」、そのノウハウを導入済みの「青いローソン」を足すと、いま、「生鮮食品もあるコンビニ」の数は4500店を超え、グループの全1万500店の半数に迫る。