現場には同時にもう1枚、別の横断幕が掲げられている。習氏を「独裁者」「国賊」などと批判しながら、政権の終焉に向け、労働や学業のストライキを求める内容だ。通行人の注目を集めるため、横断幕を掲げた陸橋の上ではタイヤが燃やされ煙が立ち昇った。
2枚の横断幕は駆けつけた警官によって取り外され、タイヤの火もまもなく消し止められた。警官により、横断幕を設置した男は即座に拘束された模様だ。
フランスの国際ニュースチャンネル「フランス24」は、次のように報じている。「この活動家はのちに逮捕された。現在のところ彼がどのような処遇を受けたのかは、誰も知らない」
「新たな天安門事件」、ネットでは検察不可に
身体を張った政府への無言の抗議という性質から、本件は歴史に悪名高い一件になぞらえ、「新たな天安門事件」とも呼ばれている。
1989年の天安門事件で戦車の前に立ちはだかった無名の男、通称「タンクマン」にちなみ、人々は高架橋の男を敬意を込めて、「ブリッジマン」の異名で呼ぶようになった。一部報道によるとこの抗議者は、彭立發(ペン・リーファ)という名の47歳男性だとされている。
拘束後の男の消息はわかっていない。ガーディアン紙は「まず間違いなく最高指導者の怒りを買い、デモに関して重罰が下る結果となるだろう」と述べ、デモ首謀者の身の上を案じている。
記事はさらに「これほどまでに大胆な抗議行動は中国では異例中の異例であり、(党大会という)政治的緊張を伴う行事の前ともなればなおさらだ」とも指摘する。
皮肉なことにこの抗議行動により、中国共産党による悪名高い検閲施策が強化された。ブルームバーグの報道によると、四通橋の事件に言及したページが検索結果から除外されている模様だ。
加えて、耳を疑うような規制が敷かれた。遅くとも事件翌日の10月14日の時点ですでに、「北京」という単語での検索を不可とする措置が導入されたという。ブルームバーグはこの対応について、「極端な措置」だと非難している。
消えた「ブリッジマン」の意志が広がる
横断幕を外され身柄を拘束されてしまった男だったが、単騎行ったデモは大きな成果を生んだ。
抗議文は橋上から撤去されたが、その様子を複数の通行人が写真や動画に捉えた。映像はソーシャルメディアで共有され、わずか数日のうちに多くの人々の目に触れることとなる。
抑圧されていた中国全土の人々は動画を視聴し、男の行動に大いに感銘を受けた。結果として現在では、同じスローガンを使った抗議行動が中国全土で見られるようになっている。人々はゲリラ的にビラを掲示し、壁への落書きを通じてスローガンを共有し、そしてネット上でも啓蒙活動を繰り広げている。
「PCR検査ではなく食料を……独裁でなく投票を……」とのメッセージは困窮する市民の琴線に触れ、切実な願いを共有する同志の輪が広がっているようだ。
党指導部の傲慢さを中国社会に問うという意味において、おそらくブリッジマン本人すら想像し得なかったであろう成果が中国じゅうに響き渡っている。