嘘つきヘルパー

そして石黒さんは、ヘルパーBさんに対しても、違和感を抱いた。石黒さんは、ヘルパーBさんに、食事・排泄・洗濯・ゴミ出し・リネン交換などを依頼。そういった関わりの中で、「父を亡くして寂しい時期なので、なるべく母と話をしてやってほしい」と頼んでいた。しかし週末に実家を訪れると、母親はヘルパーBさんのことを、「洗濯と風呂掃除を良くやってくれるんだけど、お父さんと同じで、耳が遠くて、呼んでも全然来てくれないんだよ〜」と言った。つまりBさんは、洗濯や掃除はしてくれるが、母親の話し相手はしてくれず、呼んでも無視しているということだ。

さらにBさんは、母親が頼んでいないのに蛍光灯を1本替え、レシートもないまま1500円を持ち去っていた。

2021年7月の土曜日。石黒さん夫婦が実家を訪れると、母親はぐったりとしていて、熱もあった。石黒さんが病院へ連れて行くと、「熱中症」との診断を受け、点滴を打つことに。コロナ禍だったため、救急病院にはコロナ疑いの患者が多く待っており、石黒さんは生きた心地がしなかった。

母親は、エアコンの操作ができなくなっていた。前日の金曜日もヘルパーBさんが来ていたが、母親の状態に関する報告や記録は一切無かった。

翌日、Bさんに電話をし、母親が熱中症になったことを伝えると、Bさんはまるでひとごとのように相づちを打つばかりで、責任を感じたり、心配したりする様子が全く感じられず、石黒さんはあぜん。そして、来るべきときが来た。

平日のある日、仕事中の石黒さんの携帯に、ヘルパーBさんから連絡が入る。「今日、午前中に訪問したんですけど、お母さんが、『寂しいので、夕方も来てうどんを作ってほしい』とおっしゃっています。私も、たまたま夕方空いているんで、訪問しましょうか?」という内容だった。石黒さんは、「母がそう言ったのなら……」とお願いすることに。

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しかし週末に実家に行き、記録を見て愕然。夕方に行くと言っておいて、訪問したのは15時半。さらに、流しにはうどんがこびり付いた鍋がそのまま。

「おそらく、空いた時間に仕事を入れたかっただけでしょう。こんなうどんでは、食欲がなく、ひどい偏食の母が食べるわけありません。なのに記録には、『うどんを召し上がり、エンシュアを1本お飲みになられました』と……。実はエンシュアは、生前、父のために私が用意したもの。私が母に何度勧めても『こんなの甘くって飲めねぇよ!』と言って飲まなかったのに、飲むわけがありません」

案の定、母親に聞くと、「いらねえって言ったら、兄ちゃんが飲んだ」と答えた。

「もう1つ言えば、母が話しかけても無視して掃除ばかりしているBさんに、『寂しいから、夕方も来てほしい』なんて母が言うわけないんです」

石黒さんは、母親が認知症だから何もわからないだろうと考え、「お母さんがおっしゃっています」と何でも母親のせいにし、いい加減な仕事をするBさんを許せなかった。石黒さんは、早急にホームヘルプサービス事業者を変えようと決意。

そんなとき、ケアマネAさんから、「残された介護保険内で、ショートステイを10日間利用しないか?」という提案を受けた。

この提案の主旨は、「母親がショートステイから戻った頃には、要介護認定の結果が出ていて、おそらく要支援2から要介護状態になるため、ケアマネAさんとは縁が切れる」というもの。

要支援の場合は、地域包括支援センターが直接担当する場合と、地域包括支援センターからケアマネ(居宅介護支援事業所)に委託をする場合がある。地域包括支援センターでは、要支援のみケアマネジメントをしているため、要介護になると居宅介護支援事業所に所属するケアマネに変わるのだ。

これは、母親にとっても、亡くなった父親の手続きなど、やることが多すぎる石黒さん夫婦にとっても、おそらく石黒家を担当することを面倒に感じているケアマネAさんにとっても良い提案だった。そのため、石黒さんは二つ返事でお願いした。