狭心症を我慢する父親

実家から高速道路を使って2時間ほどのところで新婚生活を始めた石黒さん。数カ月に一度は妻とともに実家を訪れていたが、時には自分たちの生活に追われ、数年実家を訪れない期間もあった。

それから数年後の2012年秋。実家に帰っていた石黒さん(当時40代)は、父親(当時72歳)から、「最近胸が痛苦しくなることがあるんだけど、しばらくじっとしていれば落ち着くから大丈夫なんだ」と言われ、石黒さんは狭心症を疑った。

「その症状は、その時始まったわけではなく、以前からあったようですが、休めば大丈夫と父は思っていました。私にとって父は、どこか不死身なイメージがあり、なんだかんだで自分の感覚で体調不良を乗り越えて来たところがあるので、『無理しないでよ。本当にやばいと思ったら、救急車呼んでよ』とだけ伝えていました」

その約1カ月後、やはりその日も胸が痛苦しくなったが、父親はじっと我慢していた。前日夜から脂汗をかき、胸が痛苦しくて動けなくなっている父親のただならぬ様子を見て不安になった母親(当時78歳)は、何度も「病院に行った方が良い」と言ったが、父親は「大丈夫だ」と言ってベッドに入り、翌朝まで我慢し続けた。しかし朝になって父親は、痛みと苦しみに耐えかね、自力で受診を決意。

写真=iStock.com/Nopphon Pattanasri
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母親は救急車を呼ぼうと言ったが、「救急車を呼ぶとご近所にわかってしまう。大事にしたくない。目立ちたくない」と言ってタクシーで病院へ。その結果、心筋梗塞を起こしていたことがわかり、医師には「なぜもっと早く来なかったんですか!」と叱られた。

仕事中に母親から電話を受けて駆けつけた石黒さんだったが、手遅れにならずに済み、安堵あんどした表情の母親を見てほっと胸をなでおろしたのだった。