「マイナ保険証」の利用はたった3%

マイナンバーカードは、16年1月に交付が始まってから6年余りが経つ。

総務省は10月19日、カードの交付枚数が6305万枚となり、人口に占める割合が5割を超えたと発表した。

だが、交付率が進んだのは、カードを取得するともらえる「マイナポイント」(第一弾=最大5000円分、第二弾=最大2万円分)の誘因策によるところが大きく、カードの利便性が高まったからではない。

実際、カード利用のメリットを実感する場面は少ない。コンビニで住民票の写しや印鑑登録証明書を取得したり、税金の確定申告の電子申請サービスを利用できる程度しか使い道がないのが実情だ。

少々の「アメ」を目当てにカードを取得した人は少なくないが、2万円程度の給付に踊らされない人が半分もいるというのが現実といえる。

総務省「マイナポイント事業」のサイトより

デジタル庁が1~2月に行ったアンケート調査によると、カードを取得しない理由の第1位は「情報流出が怖いから」(35%)、次いで「申請方法が面倒だから」(31.4%)、「メリットを感じないから」(31.3%)と続く。

笛や太鼓を鳴らしても、政府が期待した以上にカードの取得は広がらず、「22年度中にほぼ全国民へ行き渡らせる」という目標の達成は絶望的といえる。

21年10月から本格運用が始まった「マイナ保険証」に至っては、登録件数は約2500万件で普及率は2割程度、利用できる医療機関も9月時点で約6万5000施設と3割強にとどまり、実際に利用した人となると3%に過ぎないともいわれる。

「河野宣言」は、こうした低迷する状況を一気に打破しようと狙いがあった。

世論の反発で発動した岸田首相の「聞く力」

ところが、わずか10日ばかり後の24日。事態は一転する。

岸田首相が、衆院予算委員会で、24年秋の健康保険証の廃止後に「マイナンバーカードを持たない人でも受診できるように、保険証に代わる制度を作る」と明言してしまったのだ。

岸田政権の朝令暮改は今に始まったことではないが、「『マイナ保険証』に例外なし」の「河野宣言」とは真逆の方針を示したことになる。

質問した立憲民主党の後藤祐一氏は「だったら、保険証を残せばいいじゃないですか。ばかばかしい」と、あきれ顔でなじった。

「マイナ保険証の義務化」に対する世論の大きな反発に、「聞く力」がウリの首相が発した思いつきのような答弁にも見えるが、首相の口から出たとなると「単なる戯言」と片づけるわけにはいかない。

しかも、岸田首相は、28日の記者会見で、関係省庁による新制度創設のための検討会を設置すると表明、さらに踏み込んだ。

現時点で厚生労働省に「保険証に代わる新制度」の腹案らしきものはまったくないというが、新制度が創設されれば、「マイナ保険証」を取得する必然性がなくなり、マイナンバーカードの普及にブレーキがかかることは避けられない。