だが、ツァオ氏は現在、この教育が内容としては間違っていなかったと考えるようになったという。テレグラフ紙に対し、次のように語っている。
「けれど、時間がかかりましたが後になって、中国国民党が中国共産党について述べていること、同党がいかに野蛮で粗野かという話は正しかったのだと気づくことになりました」
台湾を守るはずの「シリコーン・シールド」の限界
ツァオ氏の取り組みは、高まる中台衝突のリスクを象徴するかのようだ。半導体業界に長年身を置いてきたからこそ、なおさら深刻度は高い。
台湾は世界の半導体業界の一大生産地である。米公共放送のNPRは、「台湾は半導体生産における世界のリーダー」的存在であり、半導体市場において、利益ベースで60%を占める重要な拠点になっていると報じている。
1950~90年代、台湾は蔣介石・蔣経国政権の下、アメリカの支援を受けて急激な経済発展を遂げた。台湾は、巨大な需要に応えている主要輸出国のひとつになったのだ。そのため、台湾側は、世界各国が中国の侵攻を阻止し、一定の安全性を確保してくれると考えてきた。この考え方は、シリコン・シールド(半導体の盾)と呼ばれている。
今日私たちの暮らしは、半導体に支えられているといっても過言ではない。生活家電から自動車、コンピューターに至るまで、文化的な生活を送るうえで半導体製品は欠かせない。衛星や核兵器の誘導にも欠かせず、軍事産業にとっても必需品だ。
ところが世界の半導体需要は、台湾などのいくつかの特定の国や地域に依存している。
万が一にも中国が軍事侵攻に踏み切り、台湾の半導体生産が脅かされる事態となれば、各国のサプライチェーンは寸断され、世界経済への打撃となりかねない。すでにゼロコロナ政策で中国における半導体生産が鈍化しているいま、海外に多大な影響が及ぶことは必至だ。
半導体で財を成したツァオ氏は、シリコン・シールドがいかに強力な後ろ盾かを熟知しているはずだ。そのツァオ氏でさえ軍隊を創設し侵攻に備えようとするほど、現在の中台関係は緊迫したものとなっている。
半導体の盾だけでは生き残れない…
欧米メディアは、3期目入りを果たした習近平とその周辺人事に注目し、台湾有事の恐れについて相次いで報じている。ガーディアン紙が台湾メディアの報道として伝えたところによると、台湾の邱国正・国防部長は中国側の新人事を受け、中国共産党が台湾侵略に向けた「準備を加速している」との認識を明らかにした。