メディアから何度も聞かれたこと

特にメディアからは「ネットで悪口を書かれたり、誹謗ひぼう中傷を受けたりすることもありますか?」という質問をたくさん受けた。「大多数は応援メッセージです。確かになかには批判もあるけど、そんなことよりウクライナの人のほうが心配です」と伝えると、「ちなみに、批判はどんなことを言われるのですか?」と聞かれ、ついには記事の見出しに「在日ロシア人への差別、誹謗中傷相次ぐ!」などと大きく載ってしまうのだ。

写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです

それを読んだ人に「ロシアのせいでウクライナはこんなに大変な状況になっているのに、ロシア人は自分たちが差別されることばかりを心配している」と捉えられても仕方ない。聞かれたことに答えただけで「ロシア人を擁護している」と言われてしまうと、何も言えなくなる。

もし、日本のメディアの人が「この軍事侵略によって、在日ロシア人へのヘイトがあるかもしれない」と気がついたのなら、記者が自分たちで調べたことだけを記事にしてほしい。お願いだから、ロシア人の口から「こんな差別を受けました」と言わせたような記事を載せないでほしい。私たちロシア人以上にウクライナの人たちは苦しんでいるのだから、反感を助長させるような余計なことはしてほしくないのだ。

果たして個人に軍事侵攻の責任はあるのか?

ロシア国籍を持っているので、ロシアのウクライナ侵攻に関して「ロシア人には責任がある」「ロシア人として罪の意識を持て」と言われることもよくある。当然、ロシアには国家としての責任はあると思う。だが、正直な気持ちを言うと、個人としてどこまで責任を感じればいいのかわからず、戸惑っている。

個人が罪を犯した場合、その個人に裁きが下るのであって、所属している団体に裁きが下るわけではない。会社が何か不正を行った場合、会社の代表や取締役などが裁かれ、会社としての賠償をすることはあるが、社員一人ひとりに対して裁きが下るわけではない。もちろんその結果として社員一人ひとりの給料が減るということはあるだろう。そう考えると、国が罪を犯したら、国が裁かれることはあっても、いち個人に対して裁きを下すのは違う気がしている。だから、「ロシア全体のロシア国民としての罪はあるが、個人としての罪はない」というのが、僕の本音だ。事実として、僕はプーチンに投票もしていないし、ウクライナの人に攻撃はしていない。

だが、それは“責任逃れ”だとも捉えられるだろう。ロシア人には嫌われるかもしれないが、僕は「ロシア人はひどいことをした」「申し訳ない」と発言したこともあった。すると、「あなたがそうやって謝ったり、『ロシア人としての責任を感じる』と言うと、私たちまで申し訳ないと個人として言わなければならなくなる」というメッセージが来た。これはロシアにルーツを持つ、日本育ちで日本国籍の高校生からのメッセージだった。僕はもうどうしたらいいのかわからない……。