だが、侵攻前後の1週間で、ツイッターのユーザーが同趣旨の投稿を目にしたのは日本語圏だけでも900万回にも上ったという。侵攻を正当化するロシアの主張に沿った情報に共鳴し、拡散しているのは一体誰なのか。
ロシアの侵攻が始まった2月下旬、仙台市のインターネットセキュリティー会社Sola.com(ソラコム)の情報分析担当者が目を留めたのは、前述の「ウクライナには米国主導の生物兵器研究所がある」とのSNSの投稿だった。
分析すると、フォロワー数が1万人を超える影響力が大きい20近いアカウントが拡散のハブとなっていたことが判明した。
ソラコムは2021年から真偽不明の情報や陰謀論を拡散している日本語のアカウントに着目し、ツイッターなどの投稿内容や拡散経路などの分析を続けてきた。
従来分析の対象としてきたアカウントは、主に米国の極右系陰謀論「Qアノン」に共鳴した内容や新型コロナウイルスのワクチンをめぐる誤情報を発信していたが、ウクライナ侵攻の直前からロシア政府の主張に沿った投稿を拡散する傾向がみられ始めたという。
「親ロシア」と重なる「反ワクチン」の主張
計算社会科学の手法でSNSを分析する東京大大学院の鳥海不二夫教授は2022年1月1日から3月5日、「ウクライナ」「ロシア」「プーチン」などの語句が使われたツイート約30万件を抽出し、傾向を分析した。
「ウクライナ政府はネオナチ」というロシア政府の主張に沿った投稿は228件あり、約1万900のアカウントが計3万回以上リツイート(転載)していた。これらのアカウントの過去の投稿を調べたところ、87.8%が新型コロナウイルスワクチンに否定的な内容を、46.9%が「Qアノン」に関連する主張を拡散していたという。
なぜ、ウクライナ侵攻をめぐる親ロシア的な主張と反ワクチンを拡散する層が重なるのか。
社会心理学が専門の橋元良明・東京女子大教授は「どちらも社会の関心が高く、それについて話せば承認欲求や自己満足を得やすいという共通点がある。真相がはっきりしていない部分が多く、陰謀論が入り込みやすい点も似ている。そうした意味で二つの話題は親和性が高い」と指摘する。
SNS時代の情報戦においては、誤情報の拡散や「いいね」ボタンを押すことが「兵器」となりかねない実態を当事国以外のユーザーも自覚するべきだろう。
在日ロシア大使館は「世界で最も影響力ある公式アカウント」
在日ロシア大使館のアカウントも、ウクライナ侵攻を正当化する情報が広がる起点の一つとなっていた。ウクライナ政権を「ナチス」になぞらえ、「日本は100年も経たぬ間に二度もナチス政権を支持」などと日本政府を批判する投稿もあった。
日本語のほかロシア語、英語を使い分けて発信を続ける在日ロシア大使館は実は、世界に100近くあるとみられるロシア政府の公式アカウントのうち「最も影響力ある」アカウントの一つだ。