後輩と一緒に成果ゼロで会社に戻る

星沢建設で断られた瞬間、一日分のパワーが瞬く間に失せていくのが自分でもわかった。もう、何もやる気が起きない。腕時計は正午を指している。

日本全国、昼休みだ。この時間にお客のところを訪問したり、電話したりすることは失礼にあたる。だから私はこの1時間を、午前の訪問結果の整理や、移動時間にあてていた。

目黒冬弥『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)

帰社の時間、つまり夕方の報告ミーティングまであと5時間もある。「なんとかしよう」と鼓舞する自分と、「もう無理だよ」とあきらめている自分が脳内で闘っている。こういう営業スタイルは「お願いセールス」という。

顧客に自分の会社都合でお願いお願いと勧め、成果を上げる。しかし、それは長くは続かない。商売はギブ・アンド・テイクであるべきだが、これではテイク・アンド・テイク。ギブが見当たらないのだ。相手のほうが嫌になり、信頼も失うことになる。

こうしたセールスを続けていると、自らの仕事への価値観も揺らいでくる。毎日誰のトクにもならない案件のために必死に頭を下げる。自分の仕事に意味があるのか。考え出せば、行き着く先は決まっている気がして、私は考えるのをやめる。

帰り道、気が重かった。成果ゼロ。早く支店に帰るわけにもいかず、とはいえ行く先もないまま、支店周辺を人工衛星のようにぐるぐるクルマを走らせる。ギリギリまで時間調整するのだ。あきらめて銀行の駐車場から重い足取りで支店に向かう途中、諏訪君と会った。彼もオケラだろう。足元を見つめ、やはり重い足を引きずっている。

「先輩、お疲れさまです」
「どう?」
「……」

お手上げだと言わんばかりに両手を広げ、首を横に振る。

「先輩は?」

もっとオーバーに同じジェスチャーで返す。

「怒られましょ」
「だな」

顔を見合わせて笑った。人間、あきらめの境地に達すると自然に笑みが漏れるものだ。

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