方針1 赤ちゃんの邪魔をしない

お父さん、お母さんに、まず、知っておいてほしいこと。それは、赤ちゃんは自分で自分を育てていくということです。もちろん、ミルクを与えたり、オムツを替えたりというお世話をしてもらえないと、生きていけません。でも、「能力を伸ばすために」と親がわざわざ何かをしてやる必要はない。むしろ、赤ちゃんが自分でやっていることの邪魔になることが多いのです。だから、第1方針は「赤ちゃんの邪魔をしない」になります。

2001年に小児神経学が専門の医師・小西行郎先生たちがつくった「日本赤ちゃん学会」という学会があります。ここでは、医師や看護師、心理学者などの「赤ちゃんの専門家」ばかりでなく、物理学者や数学者、ロボット研究者などが参加し、先入観にとらわれない研究が行われています。

赤ちゃんは自分で脳を育てていく

ここでわかったことは、赤ちゃんは自ら動くことで自分の脳を育てていること。赤ちゃんはおなかの中で5、6週目から動き始めます。この時期の赤ちゃんは、まだ大脳がきちんとできていません。それなのに、動くのです。なぜ、動くのか。それは、動くことで脳がつくられるからだとわかってきました。動いて自分の体に触れることで自分の体を知り、動いてお母さんの子宮に触れることで、自分以外の存在を学んでいきます。このように赤ちゃんは胎児の時から、忙しく“学習”しています。

この仕組みは、生まれてからも継続されます。赤ちゃんは寝がえりして、お座りして、つかまり立ちができるようになると、やがて歩きだします。こうしたことができるようになるために、親が何か教えてあげたでしょうか? 何も教えていませんよね。赤ちゃんが自分で周りのものを見て、ときに模倣し、自分で体の動かし方を発見して、自分で練習し、自分でできるようになっていくのです。身の回りの環境についてもどんどん学んでいます。

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ところが、こうした学習をときに邪魔してしまうのが親です。繰り返し、繰り返し、ティッシュを指でつまんで引っ張る練習をしているのに、「いたずらはやめてね」と取り上げられてしまう。障子に指をさしたら、穴が開くことを発見して、繰り返し確かめていたのに、「やめて?」と止められてしまう。それはいたずらなどではなく、赤ちゃんにとっては真剣な探索的な学習で、この時に10の姿にある「健康な心と体」や「自立心」「思考力の芽生え」などが育っています。「この子は賢い子になるわ」と笑顔で見守ってあげるのが正解なのです。

もっとも悪いのは、赤ちゃんが望んでもいない刺激を与え続けること。1960年代にソニーの創業者・井深大さんが「幼児開発協会」というものをつくり、刺激が赤ちゃんの脳を育てるとして、短いCMのような動画を繰り返し見せるなどといった実験的な教育を行ったことがありました。

その結果、頭が良くなるどころか、うまくコミュニケーションが取れないような赤ちゃんがたくさん育ってしまったのです。井深さんは幼児開発協会20周年に「本当に必要なのはまず『人間づくり』『心の教育』だと気づいた」と誤りを認めました。過去にこうした出来事があったことを、ぜひ、知っておいてほしいと思います。