「商品が良ければ売れる」ではネットには勝てない
【田中】私の専門性からの視点で解説しますと、カンパニーセントリック(会社中心主義)からカスタマーセントリック(顧客中心主義)に、さらにトランザクションジャーニーからカスタマージャーニーに移ってきたということですよね。従来は自分たちの都合、つまりカンパニーセントリックな売り場を作り、顧客に来てもらっていた。それがカスタマーセントリックに移り、顧客が買いたい売り場になっていくことは素晴らしいと思います。
【山本】カスタマーセントリックを本当に追求するとはどういうことか、アカデミー等を通して、田中先生から学ばせていただいたことも大きかったと思います。どうしても今までは「商品が良ければ売れる」という発想で売り場や店舗を考えていた。広告などお客さまに対するメッセージの伝え方も、私たちの仕事もすべて商品を売ることだけを目的としていました。それは商品中心の売り方です。
けれども、特にネットが普及してきてからは、そのやり方ではネットに勝てるわけもありません。私たちの存在意義はなにかといえば、お客さま中心に考えることです。お客さまを中心として私たちの店舗があるとすれば、別に買いものだけが来店動機である必要はありません。
どこかに遊びに行きたいなにかを食べたい、イベントを見たいと来店する先がイトーヨーカドーでいいのではないかと。買いもの以外の動機で店舗に来ていただき、結果としてお買いものをして帰っていただく。こういう発想への切り替えが重要だということを従業員に言い続けています。
ネットの台頭でスーパーの優位性が一気になくなった
【田中】グループ全体の組織図には、最上位に顧客がいらっしゃることで有名ですが、店舗の配置、顧客の流れは必ずしもそうではなかったということですね。それをカスタマーセントリック、カスタマージャーニーに切り替えているということだと思いますが、今のお話は山本社長が標榜されている「より楽しいお買いもの」を実現するための取り組みなわけですね。
【山本】そうですね。スーパーマーケットとはアメリカから入ってきた形態です。それまで八百屋や魚屋など個人商店だった店舗を1カ所にまとめて買えるようにして、かつ少しでも手ごろな値段で買っていただくためにお客さま自身がレジまで商品を持っていくようにした。そのスタイルが支持されてきたわけですが、その形態は60~70年まったく変わっていません。ネットでは店舗に行かなくてもだいたいの商品を買うことができ、さらに家まで届けてくれる。これによりスーパーの優位性が一気になくなりました。一方でネットの弱点は買い物を通じて楽しいという体験ができないことです。
【田中】まさにウィンドウショッピングのようなことですよね。
【山本】おっしゃる通りです。買いものはしなくても、ここは良い商品が置いてあるよねとか、こんなものがあるんだという気づきもありますし、店員とも会話を楽しめます。こういった体験を含めて本質的な買いものの楽しさを私たちが提供できれば、それがお客さまとってなによりも価値になるのではないか。
店舗が商品を売ることだけを中心に考えていたら、楽しいという体験はできません。楽しい体験をした結果、買いものをするという形に変える。そうすると店舗自体のつくりもそうですが、私たちの仕事自体も変えないといけません。そこを変えていくことがすごく大切だと思っています。